シリーズ『くすりになったコーヒー』

 今回は、「食後のドロドロ血液をサラサラにして血栓症を予防する」というお話です(第188話「コーヒーが血液をサラサラにする」、第216話「血液をサラサラにする安全な薬はない」も参照してください)。


●食後高血糖を防げば、糖尿病を予防できる。


 中高年者の常識となったこの考え方を循環器病(心臓病や脳卒中)に当てはめますと、「食後高凝固能を防げば、循環器疾患を予防できる」となるはずです。今や高血圧と循環器病の関係を疑う人はいませんが、日常の健康診断で血液凝固能(血液サラサラ度)を測定することはありません。


●食後の血液サラサラ度が注目されないのは何故か?


 雑誌「医薬経済(1月15日号)」に、NPO法人・日本血栓症協会が紹介されています。日本には血栓症の専門医がほとんど居ないので、血液ドロドロ状態の患者が野放し状態になっています。この協会はそんな患者さんに情報を提供するのだそうです。専門医が居ない現実は想像以上に深刻です。


 下表をご覧ください。ほぼ5千人の専門医が中高年者の食後血糖値を監視しています。なのに食後凝固能を監視する専門医はいません。日本の医療の大きな落とし穴です。



 血栓症を防ぐには血液をサラサラにしておくことが大事です。かと言って、血が固まらなくなっては大変です。昔から、「食後の血液はドロドロ」であることが知られていました。そういう血液は凝固能が亢進しているので固まり易い・・・つまり血栓症になりやすいのです。わかっているのにそれ以上の研究が進まないわけは、専門医が居ないからです。日本の血液専門医は、白血病(血液がん)ばっかり研究しているのです。


●食後の血液はドロドロである。


 百聞は一見に如かず。まずは写真をご覧ください。



 検査で採血した血液は真っ赤な色をしています(写真左端)。放っておくと固まってしまうので、そうなる前に遠心分離器にかけます。すると透明で黄色い上澄み(血漿)と、赤黒い下層(血球)に分かれます(左から2つ目)。では、右側の写真を見てください。


●食前の血漿は透明で黄色に透き通っているが、食後の血漿は濁っている(写真右)。


 実はこの濁りが悪玉で、その本体は食べた脂肪です。他にもグルコース、アミノ酸、コレステロールなどが多めに含まれて、ビタミンやミネラルなど必須栄養素が混ざっています。お茶やコーヒーを飲めば、ポリフェノールとカフェインが入ってきます。


 さて、食後の血液は食べものの成分で濁っているだけではありません。濁った血液は固まり易くなっているのです。動脈硬化の人が高脂肪食を食べると、その度に血が濁って、凝固能が高まって、動脈硬化が進んでしまうのです。


●ほどよく血液を固まらないようにする食生活が大事。


 好きなものを好きなだけ食べると、食後凝固能は上がったり下がったり、大きな変化が起こります(普通は上がる)。ですから何か工夫して、食後凝固能を下げるか、それが無理なら上がらないようにすれば、血栓形成を防ぐことができるはずです。筆者が第1に推したいのは勿論コーヒー!


 では、コーヒーが血液凝固能を下げて、血液をサラサラにするという研究について、歴史を辿ります。

  • 1987年、コーヒー抽出液は血液凝固能を下げる(詳しくは → こちら)。
  • 2010年、マウスにコーヒーを飲ませると凝固能が下る(詳しくは → こちら )。
  • 2011年、この結果はコーヒーの疫学研究と一致している(詳しくは → こちら)。
  • 2011年、チコリコーヒーを飲んだヒトの凝固能は低い(詳しくは → こちら)。

    チコリコーヒーは代用コーヒーですが、カフェイン以外の成分はコーヒーと良く似ています。有効成分はカフェ酸であると書かれています。


  • 2014年、焙煎コーヒーに含まれるメチルピリジニウムは凝固能を下げる(詳しくは → こちら)。


 これらの研究以外にも、例えば筆者が特許出願したピラジン酸やフラン酸といった香りの成分が凝固能を下げることが解っています。


【結論】


 コーヒーは血液凝固能を下げて固まり難くする。有効成分はカフェインではない。浅く煎った豆ならばクロロゲン酸(体内ではカフェ酸とフェルラ酸になる)、深く煎った豆ならばニコチン酸、ピラジン酸、フラン酸といった香りの成分とその仲間たち(第188話を参照)。いくつもの成分が作用しあって血液のサラサラ度をキープしている。


【現段階でお勧めできること】


 特に、脂っこい食べものを食べた後は、コーヒーを忘れずに飲みましょう。実際、飲みたくなるのではないですか?


注)ご注意ください。一部のネット記事に「コーヒーは血栓症によくない」と書いてありますが、根拠のない話です。


(第230話 完)


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