シリーズ『くすりになったコーヒー』

 1日数杯のコーヒーを飲んでいると脳卒中のリスクが下がるのに、5〜10杯以上を飲むと逆にリスクが高くなります(第149話を参照)。いわゆるJ字型の関係です。


●コーヒー効果の2面性を説明できる薬理学はなかったし、今も不完全。


 コーヒーが脳卒中を予防するわけは、コーヒーに血栓をできにくくする効果があるからです。東海大の後藤信哉教授が全日本コーヒー協会のホームページに書いておられるように、コーヒーを飲んだ後の血液は、血栓を作りにくい性質になっているのです(詳しくは → こちら


 オランダ・ライデン大学の研究者らは、コーヒーと血栓の疫学について論文を書いています。その内容は、コーヒーを飲んでいる人は飲んでいない人に比べて、静脈血栓症にかかるリスクが70%に下がるとのことです(詳しくは → こちら)。


 この論文によると、コーヒーは血液中の凝固因子であるフォン・ヴィルブランド因子と第VIII因子に作用して、抗血栓作用を示すと考えられます。この作用を起こすコーヒー成分とは、何でしょうか?後藤教授は、カフェインではないことを確かめました(注)。では何なのでしょうか・・・確かなことは不明ですが、図に描いたような可能性があります。


【血栓を予防するコーヒーの成分 その1】


 深煎りコーヒーのニコチン酸:コーヒーの唯一のビタミンであるニコチン酸は、抗血栓作用をもっています(詳しくは → こちら)。しかし、コーヒーのニコチン酸の量は少な過ぎて、抗血栓作用を発揮することは困難です。



【血栓を予防するコーヒーの成分 その2】


 深煎りコーヒーに多く含まれる香りの成分は、飲むと体内で変化して、ニコチン酸とよく似た物質に変わります。そういうコーヒーの香り成分が、抗血栓作用を示します。上図にあるピラジン酸とフラン酸がその代表で、なかにはニコチン酸より強いものも見つかりました(詳しくは → こちら)。


【血栓を予防するコーヒーの成分 その3】


 図に描いた、ニコチン酸、ピラジン酸、フラン酸を合わせると、1杯のコーヒーの中に、多ければ数十ミリグラムが含まれています。数杯飲めば抗血栓作用が発現する可能性があります。そこで、これらを合わせてニコチン酸類と呼ぶことにします。ニコチン酸類に共通の受容体が、今世紀の初めに発見されました(詳しくは → こちら)。


 では次に、コーヒーを1日に5〜10杯またはそれ以上飲むと、脳卒中が増えるのはどうしてでしょうか?筆者はその答として、コーヒーには未知の悪玉成分があって、飲み過ぎによってその影響が出てくるのだと考えています。カフェインの摂り過ぎを疑う研究者もいるのですが、確かな証拠はありません。


 ということですので、まだわからないことが多いのですが、血栓を予防するコーヒーの作用について、一応の説明ができるようになりました。次なる課題は、より確かに血栓を予防するコーヒーの選び方、淹れ方ということです。香り成分をたっぷり含んだコーヒーが注目されるようになることを期待しましょう。


注:カフェインは血栓形成と無関係だが、脳梗塞時の神経細胞死を予防します(第149話を参照)。


(第188話 完)


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