シリーズ『くすりになったコーヒー』


 前回「コーヒーとカフェインとは違う」という話を書きました。コーヒーの化学成分の種類は1,000以上もあって、カフェインはそのひとつでしかありません。コーヒーとカフェインは違うのです。


●であるのに、学術雑誌にも“Coffee = Caffeine”を黙認しているものがある。


 10年前に比べればかなり改善されましたが、まだまだです。特に英語圏で駄目なわけは、Caffeineの語源がCoffeeに由来しているからでしょう。名前が似ているだけではありません。コーヒーもカフェインも飲めばすぐ感じる2大自覚症状が同じです。


●どっちを飲んでも「目が覚める」「おしっこが出る」、だから「コーヒーとカフェインは同じもの」。


 しかし、カフェインはコーヒーの一部であって、コーヒーではありません。百聞は一見にしかず(写真を参照)。



 こんなに違うコーヒーとカフェインが同じだなんて、どういうことでしょう。19世紀のヨーロッパで、誰か偉い人が、「コーヒーとカフェインは同じもの」と不用意に語ったのを鵜呑みにして、口コミで広まったとしか思えません。


●「専門的なことは難しいから、効くのか効かないのか結果だけで知れば良い」という、自分に無責任な消費者の諦めが騙される原因になる。


 医学も薬学も命に係わる科学なのに、わかろうとする努力なしに、口コミ情報だけ鵜呑みにするなんて、いつかしっぺ返しを食らいますよ!


 そのしっぺ返しが間もなくやってくるのです。この4月からアベノミクスの一環で新食品表示法が施行されます。健康産業を活性化する狙いです。でもその実態は、健康食品やサプリメントの広告が野放し状態になることです。今でもいい加減な能書きなのに、野放し状態では何が起こっても不思議ありません。例えば粉末カフェインのように、死亡事故だって起こるでしょう(前回を参照)。


●仮に安全でも「売らんかなのウソ」は山ほどある(……ので、結果として経済活性化につながる!?)。


 一例です。東京大学が頑張っているユーグレナ。業界最大手の武田薬品と組んで意気盛んです。「ユーグレナだけにしかないパラミロン」(詳しくは → こちら)。
 そのパラミロンとは、「普通の食用キノコの1,3-ベータグルカンの仲間」であるとの説明が抜けています。類似品の存在を敢えて語らないことで、「ユーグレナだけがもっている優れた効能」ということになるのです。これって業界のスゴ技じゃあないですか?


 現に医療用医薬品クレスチン(抗悪性腫瘍薬 第一三共)の主成分は1,3-ベータグルカンで、パラミロンと同じように免疫系に作用する医薬品です。でも、この薬だけで癌が治ることはありません。抗癌剤と併用したときだけ、抗癌剤の効き目が強まると書かれています。


 パラミロンの効能は癌とは無関係の「免疫バランス調整機能」とのことです。プラセボ効果が最も出やすい分野です。筆者の大雑把な予測によれば、飲んだ人のほぼ半分が「良くなったようだ」と答えるに違いありません。


 さてさて、パラミロンの広告を見て消費者はどこまで理解できるでしょうか? 専門家でなければ調べようとする人もほとんどいないでしょう。そして消費者は「知らぬが仏」になってしまいます。でもご安心ください……プラセボ効果は薬の効き目のひとつですから、宣伝文句に不十分はあっても嘘はありません。


●コーヒーには、奇妙奇天烈な宣伝文句は不要。


 ではコーヒーに戻りましょう。コーヒーには新食品表示法との関係はまったくありません。メーカーによっては何か効能を書きたがるかもしれませんが、無理です。コーヒーの病気予防効果は、癌からアルツハイマー病まで実に幅広いので、片寄った効能を書いても意味がないのです。


 結論として、「コーヒーに食品表示法など無用です」。


(第228話 完)


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