シリーズ『くすりになったコーヒー』


●冬の乾燥肌10の要因(詳しくは → こちら


 米国の女医ジェシカ・ウーさんが指摘する冬の乾燥肌の要因は10ヶ条です。



 これら10ヶ条の要因を、1つの作業仮説にまとめることができます。


●作業仮説:体表面から蒸発する水分量を常時皮下から補給すれば乾燥肌にはならない。


 冬になると肌の乾燥が気になって仕方がないという御仁は多々いらっしゃいます。年齢を問わずに皮膚は乾きます。それもそのはず、皮膚には血管がありませんから、水分補給が乾燥に間に合いません。それほどに冬の空気はカラカラなのです。


 皮膚だけならまだしもよいのですが、粘膜までが乾き始めますと、状態はかなり深刻です。風邪をひく、咳が止まらない、唇が裂ける、赤くなって痛い、眠れないほど痒い……その他にも色々です。しかも治す薬はなかなか見つかりません。


●医者が言うには、「乾燥肌を悪くするからコーヒーは止めなさい」と。


 冬でも寝ている間に300mL(ミリリットル)の水分が失われます。加えてコーヒーで尿量が増えれば、隠れ脱水症になるのだそうです。そのため、朝起きたらまずは300mLの水を飲むのが良いとのことです。


 冬に脱水症なんて本当ですか? 仮に本当だとしても、朝はコーヒーに決まっているでしょう。カフェインが脱水症の原因だなんて、何処を探しても科学的根拠はありません。コーヒーを飲んで出る尿の量は、飲んだ水の分だけです。


 ではそろそろ作業仮説について証明を試みたいと思います。どうすれば乾いた皮膚に水分を補給できるでしょうか?
●機能性タンパク質の1つである3型アクアポリンAQP3が、皮膚の水路になっている。


 これは2003年度のノーベル化学賞に輝いた研究成果です。地味な生化学の研究ですけれど、日常生活のQOLにとって重要なタンパク質です。近年、AQP3が乾燥肌と深く関わっていることが解ってきました。どんな関係かと言いますと、


(1)年をとるとAQP3が減って、特に下肢の乾燥肌が赤くなったり痒くなったりする。


(2)若い人でもAQP3が不足している人は、冬の乾燥肌に悩まされる。


 そこで、AQP3を増やすか、または活性化(働きが強くなること)すれば皮膚は潤うはずです。調べてみましたら、(株)カネボウ化粧品のホームページに、ハーブ野菜のクレソンがAQP3を増やすと書いてありました。実験の詳しい内容が書いてないので、真偽のほどは不明です。


 さらに調べてみますと、なんとコーヒーオイルがAQP3を増やすではありませんか(詳しくは → こちら)。


 ヒトの皮膚から採取したケラチン細胞を、コーヒーオイルを加えた試験管で培養しますと、AQP3の遺伝子が発現した……という実験内容です。残念ながらこの実験を再確認した論文はまだありません。有効成分として考えられるのは、コーヒーオイルに含まれているジテルペン類です。しかし、コーヒーのジテルペンは、飲むと高脂血症のリスクを高めてしまいます(第215話を参照)。


 コーヒーのジテルペンをなんとか上手に扱って、冬の乾燥肌を癒せるようになれば、喜ぶ人が大勢いるはずです。全国の薬剤師さん、何か良いアイディアはないでしょうか?


(第224話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』
『医食同源のすすめ― 死ぬまで元気でいたいなら』
を購入は右側のショッピングからどうぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・