シリーズ『くすりになったコーヒー』
前回までに、コーヒー滓は体に悪いことをお解りいただけたと思います。今回はもう1つ、飲んではいけないコーヒーについて書いてみます。
●コーヒーオイルは飲まずに捨てろ!
まずは「コーヒーオイルとは何か?」。ゴマ油とかオリーブオイルと同じように、植物の種や果実に含まれている油が、コーヒー豆にも普通に含まれているのです。その油のなかに色々な成分が溶け込んでいます。TV・CMでお馴染みのゴマ油のセサミンみたいなものですが、良いものばかりとは限りません。
●コーヒーオイルにはコレステロール値を上げるCPとKPが溶けている(第214話を参照)。
茶色く焼いたコーヒー豆を抽出しても、コーヒーオイルは出て来ません。コーヒーオイルが出てくるのは、真っ黒にギラギラ光る深煎コーヒー豆の場合です(図1左を参照)。
この黒光りする豆を熱湯で煮出すと、煮汁の表面に油膜が張ります(図2左を参照)。これを紙でろ過すると、ろ液は透明なコーヒー色に変わります(図2右を参照)。油膜が紙にこびりついて除かれるので、飲むなら右がお勧めです。
ついでですが、黒光りしていない茶色い豆でも、開封したまま長くおくと黒光りすることがあります。「焙煎した豆はなるべく早く飲みましょう」というのは、「美味しいうちに」というだけでなく、「消費期限を過ぎた豆は体によくない」からなのです。
でももし戸棚の中に置き忘れた豆が見つかったら、「1分間チンして飲め」と話すのは、金大名誉教授の廣瀬さんです。そうすれば美味しくなるのだそうです。ただしチンした豆が黒光りの豆でしたら、「チンしてまでケチケチ飲むな」のほうが安全です。
●焼きたての黒光りと、古くなった黒光りは違う。
焼きたての黒光りの油には、CPとKP以外にも、香りや色の成分がたっぷり溶け込んでいるのです。片や、古くなった豆の黒光りは干乾びただけなので、良い香りは飛んでしまって、CPとKPが残っているのです。
●焼きたてのコーヒーオイルが旨いのは、溶けている香りが旨いのであって、オイルそのものは不味いのだ。
コーヒーオイルとは、ごく普通の植物油にCPとKPが溶けたようなものです。それ以外にはほんの少しのカフェインが入っているだけですが、焙煎が進むと香りとコーヒー色の成分が溶け込みます。焼けば焼く程に香りが益し、黒味を帯びてくるのです。
●よい香りは良い味の感覚を、コーヒー色は苦味の感覚を作る。
ですから、焙煎豆のコーヒーオイルは「香りも味も良い」のですが、CPとKPを含むので「健康にはよくない」のです。つまり、飲まずに捨てるべきは油分とCPとKPであって、香りや苦味まで捨てることはないのです。何かうまい方法があるはずです。
●香りや苦味の成分は水にも溶けるが、CPとKPは水には溶けない。
じっくり考えてみましょう。オイルに馴染む紙やネルのフィルターを使えば、オイルはフィルターにこびりつきます。その隙間を縫って湯が流れます。オイルと湯の接するところ(界面)で何かが起こっていませんか?
●オイルにも湯にも溶ける成分は流れる湯に洗い出されて、オイルにはほとんど残らない。
筆者は、この現象を上手にやり遂げるのが匠の技だと思っています。今のところそんなこと言っても興味を示す人は少ないでしょうが、「非平衡の分配定数」という科学の話としては、そういうことにしかならないのです。
●普通に市販されているネルと紙では、ネルのほうがオイルによく馴染む。
でもこれは、コーヒー店で売っていて普通に使われている道具を比べたときの話です。ネルでも紙でももっと研究を重ねれば、もっと良い製品ができるかも知れません。きっとできるはずだと思います。
(第215話 完)
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