シリーズ『くすりになったコーヒー』


●毎日赤ワインを飲んでいると、心臓病のリスクが減って、元気で長生きする。


 有名な「フレンチパラドックス」のことです。今世紀になって、赤ワインに含まれているポリフェノール(レスベラトロール)が、「実験用線虫の寿命を延ばした」との論文がネイチャー誌に載って、巷では「フレンチパラドックスは本当の話」になりそうでした。「Sirt遺伝子」がそのキーワードです。マスコミは「Sirt遺伝子は長寿の遺伝子」と書きまくり、学術誌も気軽に堂々と“longevity gene”と太字書きして、赤ワインが店頭から消えた店もあったそうです。


●長寿遺伝子なんてあるものかっ!


 11月13日発表の論文が人々の夢を掻き消しそうです(詳しくは → こちら)。


 一体全体、長寿遺伝子はあるのかないのか? STAP細胞みたいな話ですが、現在、110歳を超える超百寿者が世界に74人いるそうです。米国に住んでいる17人のゲノムを解析したところ、共通遺伝子らしきものは何も見つかりませんでした。つまり、万人に共通の「長寿の遺伝子」など存在しないのです。


 では超百寿者の長寿は何によって実現しているのでしょうか?


●病気にならなければ長生きする。


 当たり前のことですが、PPKを実現する秘訣は「病気にならないこと」であり、なったら「すぐ治す」ことなのです。もし遺伝子があるとしても、それは病気にならないようにしている遺伝子のはずです。下の図は、筆者が時々使うスライドで、毎年人物が入れ替わります。50代、60代で亡くなった有名人が毎年大勢おられるのです。



 病気にならない遺伝子ならば、何とか活性化できそうです。


●病気にならない遺伝子を、生活習慣の改善で活性化する(第211話を参照)。


「病気にならない〜なり難くする遺伝子」はたくさんあります。そういう遺伝子の活性化にとって、「運動と必須栄養素と寝ること」が一番大事な3大要素です。そんなことは100年前からわかり切ったことなのですが、わかり切ったことを人は大事だとは感じません。仮にわかっていても実行できません(『医食同源のすすめ』を参照 → こちら)。


 こんな情勢のなかで「長寿の遺伝子はない」との論文は、学会というよりも社会に大きなインパクトを与えます。「レスベラトロールを飲んでいれば長生きできる」というような安易な考えはあり得ない話になったのです。


 今はまだ20代の錦織圭さんが早死しないようにはどうする? ここで1つ問題です。


●激しいスポーツは寿命を縮めるが、縮めないですむような方策はあるか?



「オリンピックで金メダルを取る」は今の子どもたちの大きな夢です。その夢を実現しようと努力すると、もしかすると酸化ストレスが蓄積して早死してしまうのです。この矛盾を放っておくことはスポーツ文化にとって大きな損失につながります。


 スポーツ医学は「筋肉の機能を高める方法」だけでなく、「筋肉を超過激な酸化ストレスから保護する方法」を研究して、是非とも答えを出してください。過去の日本人には見られなかった「ゆとり教育で生まれる驚異の肉体」を今だけのものにして欲しくはありません。


●はっきり言ってここまで来ると、「コーヒーだけでは無理」かも知れません。


 でも、コーヒーがなければもっと無理です。


(第223話 完)


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