シリーズ『くすりになったコーヒー』


 第172話に、血中尿酸値は「高くても低くても良くない」と書きました。高過ぎると痛風に見舞われますし、低過ぎると心臓病のリスクが高まります。


 腎糸球体を流れる血のなかの尿酸(血中尿酸)は、その全量100%がろ過されます。そのまま尿となれば、血中尿酸はどんどんなくなって0に近づきます。もしそうなったら大変ですが、実際には、ろ過された尿酸の90%が尿細管から再吸収されているのです(図を参照)。


●尿細管の膜にある尿酸トランスポーター(URAT1)はコーヒー成分の通り道でもある(図を参照)。



 図をとくとご覧ください。丸く描いてあるのがトランスポーター(輸送体)です。この図では、全部で5種類のトランスポーターのうち1つがURAT1で、尿酸再吸収の役割を果しています。


 尿細管細胞の表面が櫛の歯状態になっているのは、細胞の表面積を大きくとって、URAT1を増やすためです。こうして一旦ろ過された尿酸の大部分90%が再吸収され、尿細管細胞のなかに入ります。そして続いてURATv1という血管側のトランスポーターを通って、尿酸は血液のなかに戻ってくるのです。


 どうしてこんなに面倒な仕組みになっているかといいますと、排泄量をコントロールして、血液中の尿酸値を最適濃度に維持するためと思われます。ですから、痛風が怖いからといって、薬で無理やり尿酸値を下げる治療は良い治療とは言えません。
さて、コーヒーの成分でニコチン酸とピラジン酸とオロト酸(カフェオレの場合)の3つは、尿酸再吸収と深い関係にあります。これら3つはURAT1を尿酸とは逆の方向に通過します。URAT1の物質の出入りは「出と入が相互依存的」になっているのです。ですから、どちらかが通るためには、もう片方も通らなければなりません。


●URAT1は交換輸送体なので、尿酸を再吸収するにはニコチン酸、ピラジン酸、オロト酸が必要で、コーヒーを飲まない人では乳酸(誰もがもっている)が働いている。


 話は変りますが、カフェインもトランスポーターに係わっています。よく「カフェインは脂肪を燃やす」といいますが、正確に表現しますと「カフェインは血中の脂肪酸を肝細胞に運び入れて燃やす準備をしている」のです(詳しくは → こちら)。


 脂肪酸が肝細胞に入るときCD36という脂肪酸トランスポーターの門を通るのですが、カフェインによってその働きが強まるのです(詳しくは → こちら)。


 この実験を確かめるため、こんな実験もやられています。


●遺伝子操作でCD36を失ったマウスは、脂肪酸の酸化分解(β酸化という)が進まなくなる(詳しくは → こちら)。


 実際に脂肪酸が燃えるのはミトコンドリアのなかですから、細胞に入った脂肪酸は、すぐにミトコンドリアに入らなくてはなりません。そこで役に立つのはコーヒーのクロロゲン酸なのですが、話が長くなりますのでまたの機会に譲ります。今すぐに知りたい人はヘルシア缶コーヒーを開発した花王(株)HPの訪問をお勧めします。動画の説明が見られます(詳しくは → こちら)。


(第208話 完)


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