シリーズ『くすりになったコーヒー』


 第156話に悪性前立腺がんとコーヒーの関係について書きました。2012年の論文で、「コーヒーを飲んでいると前立腺がんが重症化するリスクは低い」とのことでした。進行性の前立腺がんは、気づいたときにはしばしば手遅れです。リンパ節転移と骨転移が原因で、特に骨転移の場合には、「ゴルフのやり過ぎだろう」とか、「年をとって古傷が出てきた」などと言いわけを作りながら手遅れになってしまうのです。


 この論文が発表されてから、前立腺がんとコーヒーの関係を調べた疫学研究が次々に発表されました。昨年末から今年にかけて3遍のより詳細なメタ解析論文も発表されました。見解をまとめますと、「コーヒーは前立腺がんのリスクを下げる」のですが、今日はそんななかから珍しい原著論文1編を紹介します。


●コーヒーを飲んでいる人では、前立腺がんの再発/増悪のリスクが低い(詳しくは → こちら)。


 2002〜2005年の間に、米国シアトル市で比較的重症度の低い前立腺がん(PSA値<8)を治療した患者630名について、その後6年半の臨床経過を追跡しました。その結果、再発/増悪が確認された140名を含む全員について、コーヒーと茶の飲用習慣を詳しく調べたのです。全体の61%の人が、1日に少なくとも1杯のコーヒーを飲み、14%の人が1杯以上の茶を飲んでいました(図を参照)。


●1日にコーヒー4杯以上を飲む人の再発/増悪リスクは、1杯未満しか飲まない人の41%であった(RR=0.41)。


 この調査結果のインパクトはかなり大きいものでした。その証拠に、がん専門のCancer誌の編集部がこの論文を取り上げて解説しています(詳しくは → こちら)。



 解説を読んでみますと、「コーヒーが有用である」との見解に加えて、要注意事項「もっと飲めばもっと効くと考えるのは危険」と書かれています。危険の内容は過量のコーヒーの副作用と言えるもので、心血管系の病気です。急性の心血管病は致命的なので、前立腺がんが転移しなくても、心臓死や脳卒中死に見舞われるリスクが高まるのです。少なくとも統計上はそうなっているのです。


●心血管系のメタ解析によれば、1日の最適な杯数は3〜4杯である(第149話を参照)。



 高齢になってから前立腺がんが見つかっても、急にどうのこうのということはありませんが、定年退職前に前立腺がんに罹ると「予後が悪い」となっています。特に再発して転移でもすると致命的になりますから、予後改善の生活習慣が注目されます。


●「コーヒーが前立腺がんの再発/増悪(転移)のリスクを下げる」という発表のインパクトは大きかった。


「コーヒーが苦手な人」には無理ですが、そうでなければコーヒーを飲むように心がけるべきです。お茶でもよいのではとの意見もあるでしょうが、調査結果によれば、残念ながらお茶の予防効果はありません(図1を参照)。


(第203話 完)


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