シリーズ『くすりになったコーヒー』


新年おめでとうございます。


 昔、エチオピアの山奥で実った真赤なコーヒーの実は、アラビア半島に運ばれるまでに干からびて、外皮が剥がれ、種(たね)だけになっていました。下界の人々はコーヒーの赤い実(コーヒーチェリー)を食べることはなかったのです。


 しかし、言い伝えによれば、エチオピアの山奥で暮らしていた山羊使いのカルディさんは、コーヒーの赤い実を食べた山羊が興奮する姿を見ていました。種(豆)は消化されずに糞と一緒に出てくるので、山羊を元気にしていたのは、コーヒーチェリーの果肉の部分の成分で、カフェインもその1つです。



 今でもインドネシアのコーヒー農園には野生動物が忍び込み、赤く熟したコーヒーチェリーだけを選んで食べているのです。赤い実は栄養となり、そしてあちこちに残した糞のなかに、豆だけが消化されずに残っているのだそうです(写真を参照)。


 動物の糞に混ざって出てくるのは豆だけですが、これを集めて商売している人がいるのです。しかも、糞から回収したコーヒー豆は、普通のコーヒー豆よりずっと高値で取引されているのだそうです。インドネシア産はジャコウネコの糞から採れるので、コピ・ルアクと呼ばれています。


焙煎したコピ・ルアクを、筆者もいただいて飲んだことがありますが、普通のコーヒーの味がして、なんで値が高いのか不思議な気分になりました。よく聞いてみますと、浅く煎って飲んだときに、お値段相当の香りがするのだそうです。



 さて、今日の本題は豆ではなく、果肉の方の効能です。動物が好んで食べているのですから、何か良いことがありそうです。人間が食べるとどうなるのか、そういう論文がありました。書いたのはアメリカでバイオ製品の開発を目指すABC社の職員です。この会社は2011年に設立されたのだそうです(詳しくは → こちら)。


●コーヒーフルーツジュースを飲むと血中BDNF濃度が上昇する(詳しくは → こちら)。


 新しい会社ということで、目指す製品も新しい生理作用を狙っています。果肉を絞ったコーヒーフルーツジュースの効き目は、普通のコーヒーや生豆エキスを飲むより強く、しかも脳だけでなく全身の血液中のBDNF濃度を上昇させるというのです。しかし、その結果なにが起こるかということは、まだほとんどわかっていません。それなのに生命科学の研究者たちは、BDNFは魅力ある新タンパク質の1つであると期待しているのです(第182話を参照)。


 吉と出るか凶と出るか、コーヒー産地でも、コーヒーチェリーを食べたときの詳しい情報はほとんどありません。少なくとも急性毒性はないことだけは確かですが、食べた動物が病気になったという話もないし、カルディさんの山羊のように踊り狂ったという話もありません。あるのは、「BDNFが何か良いことをしているかも知れない」ということだけです。


●コーヒーよりもコーヒーフルーツジュースの方が、脳の働きには良いかも知れない。


 これはまだ「かも知れない」の話ですが、これまでは廃棄物でしかなかったコーヒーチェリーに、新たな利用価値が生まれるのは嬉しいことです。今年もコーヒーノキの活躍を大いに期待したいものです。


(注)カフェ「珈琲果実」へ行っても「コーヒーフルーツジュース」はありません。


(第193話 完)


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