シリーズ『くすりになったコーヒー』
●コーヒーを飲んでいると、アディポネクチンの血中濃度が高くなる(第158話を参照)。
この事実は、コーヒーが多くの病気を予防する最も確かな根拠です。表に書いたアディポネクチンの病気予防効果は、大なり小なりコーヒーの効きめとよく似ています。つまり、コーヒーの病気予防効果は、アディポネクチンを介して起こっているということです。
もちろん、コーヒーの効きめには、アディポネクチンとは無関係のものもあります。例えば、目覚まし効果や利尿効果はアディポネクチンとはまったく関係ありません。コーヒーには、脳の神経細胞を保護したり、ウイルスの増殖を抑える作用もあります。これらもアディポネクチンとは無関係です。
●生活習慣としてのコーヒーが、生活習慣病を予防するのは、主としてアディポネクチンの作用である。
さて、アディポネクチンをくすりにすることは可能でしょうか?アディポネクチンは飲んでも吸収されないタンパク質ですから、そのままでは経口薬にはできません。製薬会社は、飲んでアディポネクチンと同じように作用する薬の開発を目指しています。アディポネクチン作動薬です。
去る10月30日、東京大学の門脇孝教授のグループが論文を発表しました。
●人工合成してアディポロンと名づけた小分子(図を参照)は、アディポネクチン受容体に結合して、アディポネクチンと同じような効果を示す。(詳しくは → こちら)。
間もなくアディポロンの臨床試験が始まるとのことです。もし試験に成功すれば、糖尿病の治療成績が向上するそうです。
一方、中国成都医学院が発表したデータによれば、1万種類の天然化合物のなかから、アディポネクチン受容体作動薬が見つかったとのことです(詳しくは → こちら)。
●天然由来で最強のアディポネクチン受容体作動薬は、マタイレジノールである(図を参照)。
この聞き慣れない名前のマタイレジノールとは、アマ科植物のアマ(亜麻)の種子(アカゴマとも呼ぶ)から採れる小分子の1つ。化合物分類では、リグナン類に属しています。亜麻の種子を絞って作る亜麻仁油(あまにゆ)にかなり多く含まれていますし、亜麻仁油以外にはゴマ油にもありますが、亜麻仁油の10分の1程度です。
マタイレジノールはアディポネクチンの受容体を刺激して、主に血管の炎症を予防します。もちろんその他の作用も色々持っていることがわかっています。筆者は昔、マタイレジノールが白血病細胞の増殖を抑えることを見つけました(詳しくは → こちら)。
●人工合成のアディポロンと、天然のマタイレジノールは、アディポネクチン1型受容体に、ほぼ同じ強さで結合する。
もう1つ、これは偶然の一致かも知れませんが、マタイレジノールとアディポロンの化学構造はよく似ています(図を参照)。マタイレジノールは予防薬として、アジポロンは治療薬として、両方とも健康の役に立つようになるかも知れません。でもその前に、
●コーヒーを飲んでいれば、アディポネクチンを高く保てる。
今のところは、コーヒーが一番簡単で便利で現実的な方法です。
(第190話 完)
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