シリーズ『くすりになったコーヒー』
今、学校や家庭で問題になっている病気、注意欠陥多動性障害(ADHD:attention - deficit / hyperactivity disorder)のTV番組が増えています。小学校の授業中に先生の話を聞いていない、キョロキョロし続ける、席を離れてわけもなく歩き回る・・・本人の成績は上がらず、周囲に迷惑を及ぼす症状が絶えません。でもこれは性格ではなくて病気なのです。放っておくと大人になっても治りません。
●ADHDの原因は遺伝子と環境
特に注目されているのは妊婦の喫煙と生まれてくる子のADHDの関係です。遺伝子の影響は確かにあるのですが、特定できていません。「遺伝子+環境(喫煙)」・・・これが最も説得力のある原因です(図1を参照)。当初に疑われた「妊娠中のコーヒー」は、調査の結果白でした。むしろカフェインは、ADHDの治療に有望かも知れないとのことです(後述)。
●ADHDに特効薬はない。
お医者さんは中枢刺激薬のメチルフェニデート(商品名 リタリンとコンサータ)を使います(図2を参照)。脳のドパ神経接合部で、神経伝達物質(ドパミン)の濃度を高め、症状を改善するとされています。しかし効果は人によってまちまちです。
ちょっと話が飛びますが、コーヒーはドパ神経を刺激するので、パーキンソン病を予防するという話がありました(第61話を参照)。パーキンソン病で障害を受ける黒質線条体のドパ神経ですが、前頭葉ではADHDに関係しています。ならば、ADHDにもコーヒー、特にカフェインが有望と思えるので、調べてみました。
●カフェインはアデノシン受容体をブロックしてドパ神経を刺激する。と同時に、ドパ神経接合部で、ドパミン輸送タンパクを増量する(詳しくは → こちら )。
この出たばっかりの論文は、ヒトADHDの動物モデルでの実験です。カフェインはアデノシン受容体をブロックしてドパ神経を刺激するだけでなく、ドパミン輸送タンパク質を増やすことで、前頭葉のドパ神経を二重に刺激するのです(図の機序仮説?と?)。
実は、ADHD患者にカフェインを投与する試みは昔から行われていました(詳しくは → こちら )。残念なことに、カフェインの治療効果はメチルフェニデートに比べると弱いので、もっとよく調べたほうが良いと言われてきました。ただし実際にカフェインで治療するとなりますと、別の大きな問題にぶつかります。
●カフェインがADHDに効くとしても、子供のカフェインにはタブーがある。
「妊婦や子供がコーヒーを飲むと有害」と多くの人が思っています。ですから、子供のADHDにカフェインを使うことは、ある意味タブーなのです。しかし実際にはどうかと言いますと、普通にコーヒーを飲む程度のカフェインならば、ほとんど健康に悪影響を及ぼしません。例えば、妊娠中の母親がコーヒーを飲んでいても、生まれてくる子がADHDにかかるリスクは、飲まないときと変わらないのです(詳しくは → こちら )。
医薬品としてのカフェインは使えないとしても、コーヒーやお茶のカフェインがADHDに良いというのなら、「ADHDの子供たちが日ごろからコーヒーやお茶を飲む習慣を身につける」ということには大きな意味があるのかも知れません。専門家に調べてもらいたいものですが、でもその前に・・・
●子供でも美味しく飲めるコーヒーを淹れてもらいたい。もちろんブラックでね。
コーヒー屋さん、宜しくお願い致します。
(第146話 完)
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