シリーズ『くすりになったコーヒー』


 パーキンソン病は、「すくみ足」が特徴の運動機能障害です。大抵は50歳を過ぎて発症するので、老化か生活習慣が関係していると考えられてきました。生活習慣とパーキンソン病発症率の関係を調べた結果、なんと喫煙者は罹りにくいという結果が出ています。


●喫煙者はパーキンソン病になりにくい。


 喫煙ほど確かでありませんが、コーヒーをたくさん飲んでいる人ほどパーキンソン病になりにくいという調査もあります。逆に「関係は認められない」という調査もありますが、罹りやすくなるという報告はありません。


●コーヒーは、パーキンソン病を予防している可能性があるが、その逆はない。


 コーヒーがパーキンソン病を予防するというニュースは、脳研究者にとって衝撃的なものでした。そして、コーヒーには脳神経を保護する成分が入っているに違いないという仮説が生まれたのです。


 これまでの脳科学によれば、年をとるとボケる理由は、脳神経細胞の数は「10歳を過ぎると減るだけ」という性質に基づいています。一度死にかけた神経が蘇るなどということは、非常識の極みだったのです。一体コーヒーの何が脳神経を守るのか、世界のあちこちで研究されました。


●カフェインが脳の神経を蘇らせる。


□ 人は疲労すると、脳にアデノシンが貯まる。


□ アデノシンは、疲労物質とも呼ばれ、脳を休ませる役割をもっている。


□ アデノシンが多すぎると、眠りが長く続き、運動を司る神経(DOPA神経)が死にはじめる(働かない細胞には死ぬ傾向が強い・・・脳は使わないと駄目になる)。


□ カフェインは、アデノシンに代わってアデノシン受容体に結合し、アデノシンの強すぎる作用を弱めてくれる。


□ その結果、DOPA神経が蘇る。


 コーヒーがパーキンソン病を予防する効果は、実はカフェインの効果だったのです。こうしてコーヒーの効果が証明された・・・とも思えたのですが、それほど簡単ではありませんでした。何故なら、カフェインが効くのなら、お茶を飲んでいる人もパーキンソン病にならないはずです。でもそういう調査結果はほとんどありませんし、数少ない報告によれば否定的です。


 話は飛びますが、慢性頭痛や腰痛のために抗炎症薬を飲んでいる人は、パーキンソン病になりにくいという調査結果があります。このブログの第37話に、カフェインの抗炎症作用について書きました。カフェインの抗炎症作用が、頭痛や腰痛の抗炎症薬と同じように、パーキンソン病を予防しているのです。でもなぜお茶は効かないのでしょうか?


●コーヒーに入っているカフェイン以外の何かが、カフェインと一緒に効いている。


 カフェインとの相乗効果の可能性を追いかけて、コーヒーに入っている“もの探し”が続いています。最初に書いたように、パーキンソン病を予防する最も効率のよい生活習慣はタバコを吸うことです。タバコの煙に含まれているのと同じ有効成分が、コーヒーにも含まれているのかもしれません。専門的に言えば、MAO阻害効果のあるハーマンのことです。


 もう1つ有力な説があります。パーキンソン病患者に独特の「低すぎる尿酸値」が原因だともいうのです(詳しくは → こちら )。


ならば、尿酸値を下げないコーヒーの成分は?と調べてみると、逆に「コーヒーは尿酸値を下げる」という答えが見つかりました(詳しくは → こちら )。


 コーヒーとパーキンソン病の関係解明には、まだまだ時間がかかりそうです。


(第61話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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