シリーズ『くすりになったコーヒー』


 第66話でコーヒー浣腸の(うその)原理とリスクについて解説しました。今回はごく最近の映像つき論文を紹介して、重ねて注意を喚起したいと思います。論文の表題は「コーヒー浣腸が原因の直腸結腸炎」です。癌が心配だからとか、いくら便秘で悩んでいるからと言って、コーヒー浣腸に手を出すのは止めたほうがいいですよ(詳しくは → こちら )。



【症例提示】


 血便と肛門部の激痛を訴えて60歳の女性がソウル市内の韓国大学医学部病院を受診しました。彼女は受診の4日前、慢性便秘に悩んだ挙句、自宅でコーヒー浣腸を試したのです。コーヒー以外の添加物は使わずに、テーブルスプーン2杯分の焙煎豆顆粒を1リットルの湯で抽出し、冷ましてから直腸に注入し、10分間安静にして排出しました。施行後数時間を経て、下腹部に痛みを感じはじめ、翌日になって血便と肛門痛、および次第に激しくなる下腹部の痛みに苦しんで、ついに受診に至ったというわけです。上の写真は受信時(上)と治療3ヶ月後(下)に撮った大腸内視鏡画像です。


 入院時の検査では、S字結腸と直腸の全域に潰瘍が出現して、激しく炎症を起こしていました。大腸表面はびらんし、好中球が浸潤して化膿してしまったのです。抗生物質と輸液で対応した結果、幸いにも1週間後に改善の兆しが見えはじめ、9日後には普通の食事ができるまでに回復し、3ヶ月後には自覚症状が無くなったのですが、それでも内視鏡画像で見ると潰瘍の跡が残っていました。


 以前にも米国カリフォルニアの病院で、メキシコ旅行中に受けたコーヒー浣腸が原因の死亡例が報告されています(第66話を参照)。その時の死因は浣腸が原因の腸内菌感染による敗血症でした。今回は韓国での症例で、他にも2005年と2008年に似た症例報告があったとのことです。論文の筆者は、コーヒー浣腸にはPRされているような効果はまったくなく、危険な副作用があるだけなので、民間の代替医療から外すべきだと訴えています。


 日本では死亡例や入院例など報告されたことはないようですが、エステや自家用器具のネット情報が流れています(詳しくは → こちら )。


●コーヒーは飲むもので浣腸するようなものではありません。


コーヒー浣腸があるなんて予想外のことですが、コーヒー浣腸で大腸炎になったり死亡するなんて、本当に想定外の出来事だと思いませんか?消費者の方はくれぐれもご注意ください。


(第129話 完)


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