シリーズ『くすりになったコーヒー』
カフェインの効き目については、第37〜48話に書きましたから、今回はカフェインの毒性について書くことにします。カフェインを一度に5〜10グラムも飲むと、命に別条をきたすことがあります。カフェイン10グラムは大匙に山盛り1杯もありますから、毒薬という程のことではないので、その下のランクに位置づけられました。
●カフェインは劇薬に区分される医薬品である。
コーヒー1杯には100ミリグラム前後のカフェインが入っています。この量は、コーヒーを初めて飲む人が、寝つけなくなったり、尿意を催す量と言えます。致死量に達するには50杯が必要で、それまでに胃袋がはち切れてしまいます。
劇薬の定義によれば、飲んだときの致死量が、体重1キログラム当たりにして300ミリグラム以下であり、皮下注射した場合には200ミリグラム以下のものとなっています。体重70キロの大人なら21グラム以下(注射なら14グラム以下)ということなので、カフェインは確かにこの範囲に入る劇薬なのです。
医薬品としてのカフェインの使用目的は次のようなものです。
●ねむけ、倦怠感、血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛(片頭痛、高血圧性頭痛、カフェイン禁断性頭痛など)
医者が成人にカフェインを処方するときの用法・用量は、1回0.1〜0.3グラム、1日に2〜3回服用すること。従って、1日の最大用量は0.9グラム(=900ミリグラム)で、普通のコーヒーなら9杯ということになります。
ではここで、最近話題になったカフェインの毒について書いてみます。11月半ばのことでした。
●米国のFDA当局がカフェイン入りアルコール飲料(エナジードリンク)を禁止するよう製造元4社に通知した。
4社は遅くとも12月13日までに販売中止・商品回収の方向で検討しているとのことです(詳しくは → こちら )
ニュージャージー州のラマポ州立大学では、今年9月の新学期に入って23人の学生が病院送りになったそうです。こういう現象は日本でもよく見かけられることで、いわゆる「新歓コンパの一気飲み」が原因と思われますが、ラマポ大学はアルコールとカフェインやタウリンの入った“エナジードリンク”を禁止にしたそうです。それで一気飲みが治まったかどうかは不明ですが、リーマンショック以後のアルコール中毒患者急増に辟易した当局の焦りもあるようです。
●FDAの処置を見て、著名な科学誌ネイチャーがコメントを発表した(詳しくは11月25日号 → こちら )
その内容は、「米国が本当にアルコール依存症の問題に取り組むつもりなら、カフェイン含有アルコール飲料の規制よりもっと大事なことがあるはずだ」と、アルコール飲料の表示にタバコ並みの規制(税金の他に“貴方は死にます”の表示義務など)をかけることを提言しています。
コーヒー業界の皆さん、ご安心ください。ネイチャー誌の標的はカフェインではなく、飲み過ぎのアルコールなのです。
●血栓予防の治験薬「カフェイノール」は、1回用量:カフェイン100ミリグラム+アルコール3グラムです(第73話を参照)。
エナジードリンク720ミリリットル1本はこの範囲を明らかに逸脱しています。一気飲みすれば急性アルコール中毒は免れません(カフェイン最大180ミリグラム+アルコール50グラム以上)。
(第82話 完)