シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒー豆を焙煎したときできてくるヒドロキシヒドロキノンは、略してHHQといいます(別名:1,3,5-トリヒドロキシベンゼン)。HHQはやや揮発性ですが、良い香りとは関係のない、弱いタール様の匂いです。


 HHQは下図の如く、生豆の主成分クロロゲン酸が、熱で分解してできるのかも知れません(詳細不明)。木タールに含まれているこの種の化合物は安全なですが(第24話を参照)、石炭タールに含まれているものには、発癌性のものがあるので要注意です。


●コーヒーのHHQは、石炭タールか?それとも木タールか?それが問題なのだ。



 インスタントコーヒーからHHQを見つけたのは、東京薬科大学の菊川清見名誉教授のグループで、まだ一昔前の話です。ですからコーヒーのHHQは研究途上の成分なのです。菊川グループの論文によりますと、


●HHQを飲むと、尿中に排泄される過酸化水素の量が増える(詳しくは → こちら


 HHQが人体に及ぼす影響についてはデータ不足でよく解りませんが、細菌を使った変異原性試験では、一応陰性ということになっています(詳しくは → こちら


 HHQの実験ではないのですが、非常に良く似た化合物(1,3,5-置換体)をマウスに2週間経口投与した実験によりますと、2000ミリグラム/キログラムで、何の変化も起こりません。それ以上は実験不能です(詳しくは → こちら )この数字を人に換算しますと、体重70キロの大人が140グラム(コップ1杯)飲んでも死なないということです。ですから急性毒性はないと言えます。


 ということで、HHQが検出されたインスタントコーヒーを少々飲みすぎたくらいでは、まず安全と言ってよいのです。レギュラーコーヒーのHHQ含有量は不明ですが、インスタントコーヒーに比べて、桁違いに多いことはないので、これまた安全と言ってよいはずです。


 どうやらHHQは木タールに属す成分と思われます。しかしそれでもコーヒーにとってHHQは悪玉です。これがあるとクロロゲン酸の降圧効果が消えてしまうからです(第71話を参照)。HHQを除去したコーヒーを作れば、血圧を下げるコーヒーとして人気が出るはずなのですが、残念ながらまだ発売されていないようです。


 家庭や喫茶店でHHQフリーコーヒーを淹れられるようになれば、これまた高血圧にはうってつけです。簡単で手間のかからない方法はないものでしょうか?紙フィルターの代わりに活性炭でろ過したりすると、花王食品の特許に引っかかりそうですし、あんまり美味しくもなさそうです。


【珈琲名人の方へ】なんとかそういうコーヒーを淹れてくれませんか?


(第81話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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