シリーズ『くすりになったコーヒー』


「茶碗1杯のアーモンドと、魚と野菜を食べていれば心臓病には罹らない」という有名医師の勧めがあります。でも、そんなこと実行している人、聞いたことありません。何か1つの食べ物が、まるでくすりのように病気を予防するという話を聞いたら、「本当だとしても、食べ切れないので、誰かくすりにして下さい」と思った方が気楽です。


「それならコーヒーで病気を予防する話にも無理がある?」かと言いますと、そうでもないのです。何故ならば、


●コーヒーは「癖になる」ので毎日でも飲める。


 ということです。飲み忘れるのが難しいくらい飲み続けられます。コーヒー好きになれば、飲まずに我慢する方が苦痛です。


 先進国の三大死因は、癌、脳卒中、心臓病ですから、コーヒーが心臓病を予防してくれれば、そんないいことはありません。でも思った通り、「そうは問屋が卸さない」のです。以前は否定的な論文が多かったのに、最近は「コーヒーを上手に飲めば効く、少なくとも悪くない」ということになってきました。「闇夜に蛍」ぐらいの希望があるのかも知れません。


 現時点での概況です(論文は数が多過ぎるので省略)。


□1□ 煮出しコーヒーは、心臓病のリスクを高める。


□2□ フィルターコーヒーの適量は、心臓病のリスクを下げる。


□3□ 心臓病のリスク軽減は、男性より女性で起こり易い。


 煮出しコーヒーが心臓病のリスクを高めている原因は、「カフェストールとかカウエオールという物質が原因」とか、「カフェインを代謝分解する酵素が欠損している」とか言われています。確かな証拠があるわけではないですが、第63話「高脂血症」で書いたように、ここでもコーヒーの淹れ方が大事なようです。


●コーヒーの欠点を改善すれば、心臓病にも良い飲み物になる兆しが見える。


 さて、宮城県の人達がどんなコーヒーを飲んでいるか知りませんが、東北大の辻一郎教授らが発表した「宮城県民の調査結果」には驚きです。結果を図にしてみましょう。何故か女性だけに見られたコーヒーの効果です(詳しくは → こちら )。




 恐らくこれは世界中で一番よく効いたコーヒーのデータです。他のデータを見るとどれもこれに敵いません。宮城県内でさえ、男性には効果が見られないのです。その理由が何なのか今のところはさっぱりですが、1日数杯のコーヒーで心筋梗塞が減るなんて、女性だけとはいえ、是非本当であって欲しいものです。


 近い将来に、コーヒーの女性だけの心臓病予防効果の理由がわかり、ジテルペンを無くしたコーヒーなら効くことが証明され、さらにカフェイン代謝酵素の個人差のことも明確になれば、コーヒーの心臓病予防効果に「お墨付き」が下るかも知れません。


【注意事項】健康診断で冠状動脈に異常が見つかった人、狭心症経験者などは、念のためコーヒーはほどほどにしておく方がいいでしょう。


(第72話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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