シリーズ『くすりになったコーヒー』


 丁度2年前の2016年10月20日、第291話に、「前立腺癌患者がコーヒーを飲んでも症状が悪化することはない」と書きました。下表はそれまでの論文のまとめです。



 赤字の論文は、「患者がコーヒーを飲んでも安全で、再発リスクが減って長生きできる」と書いてあります。青字は、「再発や死亡例は減るけれども、数値に統計学的な有意差がなかった」と書いてあります。全体としては、表の欄外に書いたように、「前立腺癌の症状がコーヒーで悪化することはない」という一応の結論でした。


 では、その後の2年間に状況は変化したでしょうか?ほとんど変化していないと言えますが、引き続き患者数は増えていますし、治療後の経過が期待どおりでない患者さんも多くいらっしゃるので、続きを書いておくことといたします。


 第1に、2017年の論文に、コーヒーと前立腺癌の関係を調べる疫学研究に、カフェイン代謝酵素を選んだメンデリアン解析がありました。この研究は「コーヒーと前立腺癌は無関係」との結論となっています。しかしこの結果を信用することは困難です。何故なら、コーヒーの癌予防効果はカフェインだけの作用ではないことが解っているので、解析した遺伝子の種類と数が大幅に不足していたと思われます。


 第2は、今年9月に発表された論文で、これまでの論文に比べて、コーヒー摂取量に基づく患者の層別が上手くいったと思われる内容です。


●転移のない前立腺癌患者は監視療法中に1日2杯のコーヒーを飲んでも心配ない(詳しくは → こちら)。


 癌治療で有名なテキサス大学医学部からの発表なので一応信頼できる情報です。結果をグラフに書いてみましょう。直線性が2杯までと少ないのは、3杯以上を飲む人数が少ないためかも知れません。癌患者は、無意識のうちにも、以前言われていた「コーヒーを飲むと癌になる」という神話を信じてしまいがちなので、何杯も飲むことはないのです。



 ここで、論文に書かれている興味ある指摘は、カフェインの代謝速度が速い人、つまり代謝酵素CYP1A2をもっている人は、1日3杯までのコーヒーで、増悪化リスクが約3分の1まで下がることです(図の緑色)。この現象が何を意味するのか、論文には書かれていませんが、「悪いのはカフェイン」かも知れませんし、あるいは「カフェインの代謝物が効いている」のかもしれません。


●新たな疑問は「癌患者にとってカフェインは良いか悪いか?」。


 コーヒーとカフェインの謎解きはまだまだ終わりそうにありません。


(第362話 完)


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