シリーズ『くすりになったコーヒー』
カフェインを大量に含む植物はチャとコーヒーです。分類上は縁のないツバキ科とアカネ科で、原産地も中国南部とアフリカの差があります。大航海時代のヨーロッパ人が、コーヒーの種子を運んで、世界各地にコーヒー農園を開きました。やや遅れて茶畑もできました。そして今では世界の人々がカフェインを飲むようになったのです。
ミクロの世界を見てみると、身体に入ったカフェインは、頭から足の先まで、すべての場所に広がります。でも不思議なことに、場所によってカフェインの形が変わるのです。この変化を専門用語で「薬物代謝」と呼んでいます。
カフェインは「薬物代謝」の旅を経て、終着駅は尿酸で、腎臓に集まって終わります。尿酸はカフェインの旅の終わりの形です。でも、尿酸に行き着くカフェインはほんの僅かで、ほとんどがその前に排泄されてしまいます。カフェインをいくら飲んでも高尿酸血症や痛風(針のような尿酸の結晶ができる病気)にならないのはそのためです。
ところで、カフェインの仲間といえる物質がたくさんあります。核酸またはプリン体と呼ばれるもので、肉や牛乳と一緒に身体に入ってきます。核酸やプリン体がカフェインとちがうのは、どちらも終着駅・尿酸まで行き着くことです。
●プリン体をたくさん含む肉や乳製品を食べ過ぎると、尿酸が結晶して痛風になる。足の親指などに死ぬほど痛い激痛が走る。
月1回の朝日新聞一面広告に「脳内核酸」が出てますが、食べ過ぎるのはどうかと思います。核酸(プリン体)を食べるとなぜ脳が老化しないのかは疑わしい話ですが、最近びっくりするような論文がありました。
●パーキンソン病になる人は、血液の尿酸値が低い(詳しくは → こちら )。
パーキンソン病は、全身の筋肉運動に関係する脳神経の病気です。尿酸との関係は以前から言われていたし、データも十分揃ったので、プリン体で治療する臨床試験が始まりました(詳しくは → こちら )。
年をとって発病するもう1つの脳の病気にアルツハイマー病があります。この場合は物忘れなど認知能力の低下が問題で、パーキンソン病とは別の神経がなくなって、ボケるのが特徴です。
●アルツハイマー病と尿酸の関係は、今のところはっきりしない(詳しくは → こちら )。
つまり、アルツハイマー病で失われる脳の神経を、プリン体を補って救える可能性は見えてきません。はっきり言って、なってからでは効きません。だから、脳内核酸を増やしても脳の認知力に影響が出るとは思えず、それでも食べ続ければ、ある日突然、足の親指に激痛が走ることになるでしょう・・・くわばら、くわばらなのです。
さて、尿酸を増やしてパーキンソン病を治療する臨床試験では、実際に飲むのは尿酸ではなく、「イノシン」というくすりです。イノシンは鰹節の成分で、既に医薬品にもなっていて、日本では抗癌剤などが原因の白血球減少症に使われます。サプリメントとしても売られていて、この場合には、筋肉増強が目的です。現状を見る限り、イノシンとパーキンソン病は無関係ですから、臨床試験でどんな結果が出るか、その成り行きが気になります。
さて以前(第37話)、カフェインには強い抗炎症作用があると書きました。今日はカフェイン代謝の終着駅とも言える尿酸に、神経を守る抗酸化作用があることを書きました。そうするとどういうことになるかと言いますと、
☆☆☆仮説 カフェインと尿酸(イノシンでも良い)を併せて飲むと、相乗作用が働いて神経保護作用が強くなる。
本当にそうなるかどうか、今はまだ何とも言えませんが、医食同源を貫くならば、肉や牛乳・乳製品を食べた後に、カフェインたっぷりのコーヒーか抹茶を飲むのがよいのです。飲んだカフェインと、食事でできる尿酸の相乗効果が、脳神経を守る効果につながります。
わざわざ「イノシン」を飲む必要はないのです。
【尿酸値の高い人】 サプリメント・イノシンの摂り過ぎに注意しましょう。
【製薬会社の方へ】 こんなもの同士の組み合わせでは、儲かる薬にはならないですよね。
(第42話 完)