シリーズ『くすりになったコーヒー』


 今世紀になって、「コーヒーがパーキンソン病を予防する」との調査結果が発表されました。賛否両論ではありますが、なぜ効くのかという理由について正確な情報はありません。そんなコーヒーのポリフェノールから、パーキンソン病治療薬「コムタン」ができたのです。「コムタン」はちょっと変わったくすりです。


●変わっている理由:コムタンは直接パーキンソン病に効くのではなく、既に使われているパーキンソン病治療薬「レボドパ」の効き目を強め、作用時間を長くします。いわば「コムタン」は「レボドパ増強薬」なのです(詳しくは → “こちら” )。


 化学構造式にアレルギーの人も、まずは下の図を見て下さい。左側はコーヒーのポリフェノール、カフェ酸です。中央は、昔からある研究用試薬です。そして右側が新薬コムタンで、国内発売は2007年でした。カフェ酸との違いを赤で示します。


●構造式の要点:コムタンの基本骨格(黒い部分)はカフェ酸と同じです。コムタンの赤いNO2は研究用試薬と同じです。NO2以外の赤い部分が、コムタンだけの特徴です。


 構造式にはこういう違いがありますが、効き目の違いの情報は不足しています。


 なぜコムタンはくすりになったのでしょうか? カフェ酸では駄目なのでしょうか?


 ノバルティスファーマ株式会社の社員になったつもりで考えてみました。


・カフェ酸より効き目が強いから?     → でも比較試験は行われていない!


・カフェ酸よりよく吸収されるから?    → でも吸収率は大して違わない!


・カフェ酸より効き目が長持ちするから? → でも半減期は大して違わない!


・カフェ酸より副作用が少ないから?   → でもコーヒーに副作用報告はない!


・それとも何か別の理由があるのでしょうか? ⇒ そうです、製薬会社にとって一番大切な理由とは、「特許が取れる」ことなのです。

 この理由は非常に大事です。何故なら、苦労して、お金と時間をかけて、大勢の患者に頼んで臨床試験をやって、厳しい審査を受けて、発売してからも副作用のリスクを背負う・・・それでもくすりを作る最大の理由は、売れれば苦労が報われるからです。


 ただ、どうしても疑問が残ってしまいます。「コムタンとカフェ酸、どっちがよく効くのでしょうか?」。この疑問にどう答えたらよいのでしょう・・・?

●この疑問に答える方法:カフェ酸の素になるクロロゲン酸をたっぷり含んだコーヒーを飲んでみる。


(1)レボドパを飲んでいてコーヒーも好きな人の場合:もちろん「かかりつけ医師」に相談してみての話ですが、「浅煎りコーヒー」を飲んでみては如何でしょうか? 浅煎りのコーヒーにはクロロゲン酸が多く入っていますから、コムタンと似た作用が出る可能性があります。勿論、コムタンにはないそれ以外のコーヒー効果も期待できます。

(2)レボドパを飲んでいてもコーヒーが嫌いな人の場合:もし緑茶が好きならば、カテキンが多めの銘柄を選びましょう。カテキン(“第20話参照”)の没食子酸(もっと知りたければ →こちら )はカフェ酸に似たポリフェノールで、これもレボドパの作用を強める可能性があります。カフェ酸と没食子酸の比較ではカフェ酸の方が強力ですが、試験管内での比較です。

☆☆☆さて、カフェ酸とコムタンの絶対的な違いとは、


●コムタンは処方箋薬だから、パーキンソン病にならないと飲めない。


○カフェ酸はコーヒーの成分だから、誰でも飲める。


 カフェ酸を飲みたければ、生のコーヒー豆が適しています。そのほうがたくさん摂れるからです(詳しくは → コーヒーの処方箋)。


 美味しいコーヒーでなければという人は、浅煎り系をブレンドしましょう(自分でブレンドするのが面倒な人は → (こちら) 


 さあ、試してみる気になりましたか? 新薬「コムタン」の起源はコーヒーなのです。



(第22話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
『コーヒーを科学するシリーズ』を購入される方は下部のバナーからどうぞ