シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒーの通風予防効果を説明できるほどではありませんが、この夏、尿酸産生阻害作用をもつ化合物が見つかりました。以前からコーヒーの苦味成分として知られていた成分の仲間です。


●コーヒー豆の焙煎でできるフェニルインダン類は尿酸産生を阻害する(詳しくは → こちら)。


 コーヒー・ポリフェノールの1つであるカフェ酸が、熱で2つくっつく(重合する)とフェニルインダン類になります。これまでにも4つ知られていましたが、今回見つかったのは1と2で、尿酸合成酵素のキサンチンオキシダーゼ(XO)を阻害する作用は、6つのなかでは強い方でした(図を参照)。




 強いと言っても、医薬品のアロプリノールに比べればずっと弱く、400分の1程度でしかありません(表を参照)。カフェ酸そのものに比べても弱い作用で、10分の1程度です。ですから、フェニルインダン類がコーヒーの尿酸値低下作用や通風予防に役立っているとは言えないのです。コーヒーにはまだまだ珍しい化合物が含まれているんだなあ・・・という話のネタになる程度です。


 追記しますと、図の3-6のインダン類は苦味成分として2007年に報告されたものです(詳しくは → こちら)。筆者はかつてクロロゲン酸の粉末をスプーンにとって、ガスバーナーで加熱してみました。粉末が溶けて泡を出してやや着色したところで、味見してみました。確かに苦味を感じたのを覚えています。


 ところで、今では誰もが知っている「体内を血が巡っている」という「血液循環論」を最初に発表したのはウイリアム・ハーベーでした。オックスフォード大学長や2代の国王に侍医として務めた大者でしたが、劇症痛風の持ち主でもあり、耐え難い痛みを大好きなコーヒーのがぶ飲みで堪えていたそうです。


●ウイリアム・ハーベーが「コーヒーは通風に効く」と唱えたお陰で、ヨーロッパでは「コーヒーは薬」として扱われた(第248話を参照)。


 そして今日、ハーベーのコーヒー大仮説(?)は現代医学の洗礼を受けて、真に薬としての地位を確立しつつあるのです。フェニルインダンの寄与が小さくても、コーヒーにはそれ以外に尿酸値を下げる成分が色々入っているのです。


(第357話 完)


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