シリーズ『くすりになったコーヒー』

 第15話に書いたように、人類が酸素を吸って生きる限り活性酸素の弊害は宿命と言えます。そのために病気になったり老化するとも言われています。普通なら身体が自然に守ってくれますが、過剰にできると処理しきれません。


 前世紀の半ば、活性酸素の弊害を減らす医学/薬学が生まれました。最初に見つかったのはビタミンで、なかでもニコチン酸(第2話参照)、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化作用が注目されました。


 しかし、ストレスの多い現代社会でビタミンだけに頼っていても満足できる結果は得られません。そこで、癌になった人とならなかった人が何を食べていたかという調査が行われ、ビタミン以外にも抗酸化作用をもった栄養成分が見つかってきたのです。“ポリフェノール”はその代表です。


 ところで、一口に“ポリフェノール”と言っても様々です。


●“ポリフェノール”とは、植物界に広く分布し、化学構造として「2つ以上のフェノールを含むもの」の総称


●数は無限、形は色々、効き目も色々、含む植物も色々・・・なかには毒も薬もある。


●“ポリフェノールは身体に良い”という言い方は正しくない。


 ではありますが「ポリフェノールがいっぱい!」などと言われますと、「なんだか身体に良さそう」とか思ってしまうのは何故でしょう? 答えは、「食品会社と食品会社から研究費を貰っている研究者が作ったイメージ」としか言いようがありません。研究者の言うことはTVコマーシャルより大袈裟なことが多いのです。


 でもまあ大きくまとめて言えば、排気ガスや動物性ポリフェノールに比べれば、植物性ポリフェノールは比較的安全で、なかには抗酸化作用を示し、病気を予防するものもある、ということに間違いはありません。そして、これにあやかって怪しげな商品が売られることも大いにあり得ることなのです。大事なのは本物を見分ける経験と知識です。


 さてコーヒーが抗酸化作用を発揮するわけはクロロゲン酸にあります。これを飲むと小腸から吸収され酵素で分解されてカフェ酸とフェルラ酸に変わります。この2つもやはりポリフェノールで抗酸化作用をもち、しかもお茶のカテキンや大豆のイソフラボンに比べてもずっと強い効果を発揮します。


 しかし問題があります。クロロゲン酸は熱に弱いので焙煎するとなくなってしまうのです。ですからクロロゲン酸をたっぷり含むレギュラーコーヒーを味わうことは結構難しいことです。そこでコーヒーメーカーは考えました。


●コーヒー豆を焙煎するとクロロゲン酸がなくなってしまう!


●缶コーヒーなら、クロロゲン酸を添加できる!


 そうです、缶コーヒーにコーヒー生豆エキスを添加物として加えるのです。味は悪くなりますが企業努力で何とかなります。通りがかりの自販機を探してみるのも面白いですよ!


次に、本物志向の人のために、


Q クロロゲン酸をたっぷり含むレギュラーコーヒーは作れますか?


A 勿論、可能です!


 ヒントは「コーヒーの処方箋」「に書かれていますが、誰にでも作れるものではありません。くすりの処方箋を調剤薬局にもって行くように、コーヒーの処方箋には「栄養成分ブレンド屋」が必要です。勇敢にチャレンジした会社が1年奮闘し、市場一番のクロロゲン酸コーヒーが完成しました。しかしそれでもまだ1日1杯で補給するには不足です。


 クロロゲン酸はカフェインに次いで深く研究されたコーヒー成分です。そして何と、クロロゲン酸そっくりの化学物質がパーキンソン病のくすり(コムタン)になりました。でも不思議なことに、クロロゲン酸とコムタンとどちらがいいかという研究は何処にも見つからないのです。

 今やクロロゲン酸の抗酸化作用を疑う薬理学者は居なくなりました。食用ポリフェノールとしてクロロゲン酸は最も強力な病気予防効果をもっていると言えるでしょう。残された課題は、「どんなコーヒーを飲めばクロロゲン酸の恩恵を受けられるか?」という点に絞られてきたような気がします。


☆☆☆クロロゲン酸の予防効果がほぼ証明されている病気・・・高血圧、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、痛風、高尿酸血症、パーキンソン病、アルツハイマー病、その他(詳しくは → 珈琲一杯の薬理学


(第16話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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