シリーズ『くすりになったコーヒー』
3月10日の第11話で、コーヒーの抗ストレス効果はヨーガや気功の呼吸法に匹敵すると書きました。もし大昔のインドや中国にコーヒーがあったなら、門前カフェは仏道修行そっちのけの信者達で大繁盛だったに違いありません。
実際、千年以上前に世界で初めてコーヒーが普及したアラブ諸国では、飲酒は法で禁止され呼吸法もありませんでした。それでも人々は香水の香りとカフェインに満足していました。今でもカイロの土産屋さんには紀元前からの香水が山積みになっています。
しかし香水の歴史のなかにコーヒーは出てきません。何故でしょうか? それは、コーヒーの香りを生む焙煎技術が発明されたのは、香水が普及したよりずっと後の時代だからです(詳しくは「珈琲一杯の薬理学」)。
何は兎も角、呼吸法も香水もともに副交感神経を刺激して、血圧を下げ、気持ちを落ち着かせて、うつ病を予防することは事実であり、両方を同時に行えば相乗効果(1+1>2)はさらに高まります。
ではコーヒーはどうでしょうか? コーヒーがストレスを癒す飲み物であることに異論はないはずです。もし“異論あり”という人が居るならば、その人のために「コーヒーでストレスが消えるわけ」を書いておきましよう。
京都大学の森谷教授は、コーヒーが交感神経と副交感神経をあわせた自律神経系を刺激して、そのバランスを調節することを示しました(栄養学雑誌J Nutr 1997;127:1422-7)。森谷先生は、有効成分はカフェインだと考えています。
しかしデカフェコーヒーにも効果があるので、カフェイン以外にも効き目の成分があるはずです。?花王食品のグループは浅煎り豆のカフェ酸を確認しました。筆者のグループは深煎り豆のピリジニウムを見つけました。ですから少なくとも3つの有効成分があるのです。
3つの成分が自律神経に及ぼす効果は次のようなものです。
1.カフェインは、カルシウムを動員して自律神経全般を活性化する。
2.浅煎り豆のカフェ酸は、アドレナリンの分解を抑えて交感神経を活性化する。
3.カフェ酸からできるフェルレ酸は、副交感神経を活性化する。
4.深煎り豆のピリジニウムは、副交感神経を活性化する。
これらは100%薬理学の世界ですから一般の人にはチンプンカンプンでしょう。そこで、日常用語に訳しますと、
●カフェインは、自律神経を活性化してストレスで神経細胞が死なないように守っている。その上でカフェ酸とピリジニウムが自律神経のバランスを調節する。
●自律神経のバランスは人によって違うので、イライラが強く興奮しやすい人には深煎りコーヒー(4が多い)、身体がだるく元気がなく気分も優れない人には浅煎りコーヒー(2が多い)が似合う。ただし個人差があるので両方確かめて気にいった方を選ぼう。ということなので、是非試してみて下さい。そしてコーヒーの効果に呼吸法(複式深呼吸)が加われば、更なる相乗効果が期待できます。
では、練習してみましょう。
☆☆☆ストレスを癒すコーヒーの飲み方
コーヒーを一口飲んだら、音を立てずにゆっくりと深く深呼吸する。息を吸うときはコーヒーの香りを鼻と口から吸い込んで、吐くときは鼻から肺のなかのすべての空気を、決して力まずに全部吐き出す。吸う時間を1とすれば、吐く時間は2以上にする。
このようにして、嗅いだコーヒーと飲んだコーヒーの薬理効果、腹式深呼吸で筋肉から脳へ伝わる物理的刺激、カップを握る手と温かいコーヒーによる粘膜の温もり(第12話)
これらすべての効果が相乗的に重なって、癒しのうねりが生じるのです。効き目を意識して練習すればさらに効きます。
嘘だと思ったらやってみて自分で確かめて、実感できたらご一報ください。
oka@ps.toyaku.ac.jp
(第13話 完)