シリーズ『くすりになったコーヒー』

 NHKスペシャル「うつ病治療の常識が変わる」を見ました。不景気になるとうつ病が流行るので、この時とばかりに新クリニックが増えています。認知行動療法など心のケアを提供できるクリニックはまだ少数で、それ以外は薬物治療が中心です。


 野村総一郎教授の「テレビに出ている医者がよい医者とは言えない!」の発言に、「え!(ご自分も)出てるくせに!」と思わず声をかけました。うつ病を診断するのは専門医といえども難しいとのことですが、患者にとって医者選びはもっと困難です。


●野村教授の怪しい精神科医の見分け方


1.くすりの効き方や副作用を説明してくれない。


2.初回から3種類以上のくすりを処方する。


3.くすりの数がどんどん増える。


4.くすりのことを聞くと不機嫌になる。


5.くすり以外の対応法を知らない。


 とのことです。是非参考にしてよいお医者さんを見つけるまで気を長く持ちましょう。一生はもっと長いですから。


 うつ病になってしまったら、一番人気の抗うつ薬はSSRIと呼ばれるものです。脳内セロトニンの濃度を高めてうつ状態を改善します。古くから知られているカフェインの効果も脳内セロトニンの増加です(農学の生命科学 Agric Biol Chem 1988;52:3173-4)。


SSRIに比べるとカフェインの効き目は弱いのですが、それでもコーヒーを侮ってはいけません。カフェ酸が副交感神経を刺激してセロトニンの作用を強めるからです。カフェインとカフェ酸は相乗的(1+1>2)に作用してうつ状態を改善するはずです。少なくともその予防薬としての可能性に期待がもてます(第5話も参照)。


 コーヒーは本当にうつ病を予防するでしょうか。論文を探してみると、「コーヒーを飲む人の自殺死亡率は低い」という調査がありました(食品栄養科学総説誌 Crit Rev Food Sci Nutr 2006;46:101-123)。1日に2〜3杯のコーヒーを飲むと、自殺率が50%に激減します。自殺理由の90%以上がうつ病であることを考えると無視できない数字です。


またごく最近になって、うつ病の断眠療法(1日を寝ずに過ごす治療法)でカフェインを飲むと治療効果が向上するとの報告もありました(精神疾患雑誌 J Affect Disord 2009;112:279-83)。


 一方、フィンランドの調査では1日8杯以上の飲み過ぎは逆に自殺者を増やすとなっています。理由はよくわかりませんが、うつ病患者にコーヒーを飲む人が多いのが原因かも知れません(一般精神医学年報 Ann Gen Psychiatry 2008;7:13)。ストレスでコーヒーの量が増えてきたら要注意です。


☆☆☆以上を総合すると、1日2〜3杯のコーヒーはうつ病を予防し、自殺率を下げる。


 ところで、うつ状態になると昼夜のリズムが乱れるため、昼に眠くなり夜間に眠れないということが繰り返されて、症状が悪くなるようです。この状態は自律神経バランスの異常と同じなので、腹式呼吸が有効ではないかと思われます。


 そこでうつ病の呼吸法について調べてみますと、ありました! それも我が家のそばの大学病院にありました。東邦医科大学の有田秀穂教授は、“呼吸を変えれば「うつ」はよくなる!”という本を書いて腹式深呼吸を奨励しています。私もこの意見に大賛成です。


☆☆☆下記はコーヒーと組み合わせた「うつ病予防の処方箋」です。生活習慣のちょっとした工夫が思わぬ効果を発揮します。


1.コーヒー呼吸法


  コーヒーを飲んだ後で腹式深呼吸を練習する。ゆっくり肺一杯に吸い込んで、時間をかけてもっとゆっくり全部鼻から吐き出す。決して力まずに5回ぐらい繰り返す。


2.昼間に眠い時はコーヒーでもお茶でも飲んで、なるべく起きているようにする。夕方になったら飲まないようにする。時々呼吸に気をつけて、浅く早くなっていたら深呼吸の練習をする。


 それで副交感神経が優位になる。


3.食事療法


 そば、大豆製品を多めに食べる・・・セロトニンを増やす。


 肉、卵、チーズを控えめにする・・・アドレナリンを減らす。


 食後に必ず浅煎り系のコーヒーを飲む(1日3杯程度/飲むと気持ち悪くなる人は飲まない)


●さあ、ストレスが溜ってきたという人はどん底不景気に備えて今すぐコーヒー深呼吸を始めましょう。


注)コーヒーはうつ病を予防する生活習慣の1つです。一旦うつ病が発症したらコーヒーだけでは治せません。呼吸法も同じです。薬物治療と合わせて行えば効果を期待できます。加えて美味しいコーヒーと爽やかな空気がプラセボ効果をもたらします。


(第9話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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