副作用の少ないやせ薬のことが気になっていました。中外製薬が新薬オルリスタットの国内販売を諦めたのはもう大分前のことです。


 最近になって、OTC(大衆薬)としての販売を意図する製薬会社が名乗りを上げています。


 ところで、食べ過ぎても体重ゲットなしの食材などありません。そうではなくて糖尿病になりにくい栄養素なら世界中にデータがあります。


 論文(栄養科学とビタミン/東京 2004;51:292-310)によれば、糖尿病予防の5大栄養素とは、植物油、不飽和脂肪酸、穀物繊維、マグネシウム、カフェインのことで、食品で言えば「全穀とコーヒー」の2つがダントツ! 明日からの脱メタボ朝食メニューは「コーヒー牛乳+全穀フレーク」にしようかな・・・となるのです。


 それでも体重が増えるなら、食事制限、次は運動。これに勝るダイエット法はありません。そんなこと誰でも知っています。でも、駅のエスカレーターにスナック食べながら行列している御仁はやる気なさそう。


 そこで登場するのが手軽に痩せられるクスリなのですが、クスリはリスク・・・今あるものは例外なく脳に効くので、間違えれば一生棒に振ってしまいます。外国土産と個人輸入が最悪で、度重なる報道にもかかわらず被害者は後を絶ちません。


 オルリスタットは日本では未承認ですが、海外100ヶ国以上で人気があるようです。食べた脂肪を吸収しないという単純でわかりやすいメカニズムなので、今までの薬と違って安全とみなされているようです。


 超肥満者が多い米国では早くから期待され、2007年に処方箋のいらないOTC薬として承認されると、わずか半年で300億円を売り上げました。お陰で米国人の食べ過ぎ傾向は一向に収まる気配を見せません。


 臨床試験の結果によれば、BMI>30の人が食事制限しながらオルリスタットを1年間服用したところ、35.5〜54.8%の人で体重5%減、16.4〜24.8%の人で体重10%減となりました。これは食事制限だけで過ごした人のほぼ倍の数字なので、差し引きますと、10人に1人の割合で10%減が達成できるというわけです。


 問題はリバウンドです。薬を止めると減量した分の35%が元に戻ってしまいました。つまり、オルリスタットには食欲を減らす作用はないのです。だから服薬期間中に過食の習慣がなくなるということはありません。


 オルリスタットとコーヒーを比べます。明らかな相違点は食欲への影響です。オルリスタットは食欲を抑えませんが、コーヒーやお茶のカフェインは満腹中枢を刺激して食欲を抑えてくれます(英国栄養学雑誌 2004;91:431-7)。食後にお茶やコーヒーを飲む習慣は、「これ以上は食べないよ」という合図でもあるのです。


 コーヒーのカフェインは新陳代謝を刺激して1日5杯で100キロカロリーを燃やしてくれます。毎日続ければ体重減を期待できる数字です(米国臨床栄養学雑誌 2006;84:682-93)。オルリスタットにそういう効果はありません。


 ではコーヒーの体重減量効果は?と言いますと、数字としては出てきません。疫学調査では最大10キログラム減が認められます(ロンドン国際肥満学雑誌 2005;29:1121-9)。この点はオルリスタットと同じですが、個人差がかなり大きいようです。ということで、食事制限さえ忘れなければコーヒーよりオルリスタットが勝っているようです。


 一方、副作用は?と言いますと、オルリスタットでは吸収されない脂肪が下着を着色する程度に排泄されるのに対し、コーヒーでは不眠と利尿が起こります。


 以上を総合しますと、オルリスタットは病院で治療を要するほどの肥満者に優れた薬と言えますが、健康な人にとってはコーヒーを飲むなど生活習慣の改善のほうが勝っていると言えそうです。もし努力せずに新薬飲んで食べるだけ食べてそのまま排泄するというのなら、脂肪便過多への備えと適正使用を忘れてはなりません。


 さて筆者の場合ですが、栄養成分ブレンドコーヒーの☆☆☆処方箋(第5話参照)を選びました。そして「医食同源」にこだわってメタボと戦う覚悟です。カフェインがもたらす満腹感のお陰で、食後にベツバラを満たすようなマナーの悪さもなくなります。


 ●私の実績(約2年で) BMI=25.81 → 24.60 ダイエットは絶対にしていません。 


(第6話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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