シリーズ『くすりになったコーヒー』


 劇薬カフェインはコーヒーから1819年に発見されました(第259話を参照)。今年で満200歳になる古い薬です。カフェインの見までは、例えばコーヒー好きだったゲーテに言わせると、「コーヒーを飲むと生気が漲る」だったのですが、人類が新たに手に入れた純粋なカフェインをちょっと飲み過ぎると「震えがくる、眩暈がする、脈が乱れる、不安になる、瞳孔が開く」など強烈な作用がでるのです。


 これには誰しもが驚き震えました。そして「カフェインは毒である」との噂がヨーロッパ全域に拡散したのです。そのため「やっぱりコーヒーはイスラムの悪魔の飲み物に間違いない」等々と風聞も囁かれるようになりました。そして20世紀になると、医学界が「煙突掃除屋は膀胱癌になる」との因果関係を認め、その原因が日本人医師によって「真っ黒なタールにある」ことが証明されました。これはノーベル賞級の発見だったのですが、コーヒーにとっては不幸の上塗りにしかなりませんでした。


●真っ黒なコーヒーは発癌物質である(第267話を参照)。


 この事件を切っ掛けに、コーヒーの疫学研究が始まったのですが、実はもう1つのコーヒーの歴史の始まりでもあったのです。


●コーヒーからカフェインだけを取り除くことが出来れば、安心して飲めるようになる。


「デカフェコーヒー豆を作りたい」・・・これが「decaffeinated coffee」の始まりで、焙煎業者のコーヒー豆づくりの新たな目標になったのです。
5つの技術が試されました。第1は「化学的方法」、第2は「交配」、第3は「天然デカフェ」、第4に「遺伝子組み換え」、第5には「突然変異」です(下図:Nature Vol.483, 15 March, 2012)。




 そして1980年代になって、炭酸ガス超臨界抽出法と湯と水だけの抽出法が完成したのです。最初は美味しさの点でなかなか実用性が期待薄でしたが、今では美味しさの点で十分市場に耐えられるほどに改良されてきました。下図は湯と水を使う方法で、スターバックス社が採用しているそうです(詳しくは → こちら)。



 さて、こうなってきますと、カフェインの摂り過ぎでコーヒー杯数を制限されることはなくなります。疫学研究でJ字型の因果関係を指摘されている心血管病、脳卒中、呼吸器疾患はその代表です。最適杯数は3-4杯で、それ以上は死亡リスクの増加につながってしまいます。ですから3-4杯を超えて飲む人はデカフェコーヒーを選ぶことでリスクを増やさずに済むのです。


 それでは次回はデカフェを飲むことが好ましい病気について詳しく書くことといたします。


(第350話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空前の珈琲ブームの火付け役『珈琲一杯の薬理学』
最新作はマンガ! 『珈琲一杯の元気』
コーヒーってすばらしい!
購入は下記画像をクリック!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・