シリーズ『くすりになったコーヒー』
湯には溶け出さないが、オイルを含んだ滓や湯に浮いたオイを飲むと、そこに溶けているジテルペンを飲んでしまいます。コーヒーのジテルペンとは、カフェストールとカウェオールの2つがあって、これらはどちらも血清コレステロールと中性脂肪(トリグリセリド)を増やします。するとご承知のとおり、粥状動脈硬化から心血管病へ、あるいは脂質・糖質代謝異常を経て糖尿病へと展開し始めてしまいます(第63話、第72話、第96話も参照)。
●フィンランドでは、伝統的に飲んでいた煮出しコーヒーをドリップ式に変えたことで、心血管病の死亡率が低下した(上記の他に第214話も参照)。
どうやら三大死因の2つ、心臓病と脳卒中の死亡率を下げるには、ジテルペンの入っていないドリップ式で抽出するのが良さそうです。ドリップ式はどのようにしてジテルペンを排除しているのでしょうか?今日はそれを考えたいと思います。
先ずは図1をご覧ください。
深く煎った豆は表面に油が浮きだして黒光りしています。これを挽いて熱湯(ちょっと冷ましてから)を加えると湯の表面に油が浮かんで油膜を作ります。これをろ紙でろ過すると油膜のない奇麗なコーヒー液に仕上がりました。問題はこのオイル(油)に溶けているジテルペン、豆を挽かずにアルコールでサッと洗ってそのまま定量分析してみました。するとクロマトグラム上にカフェストール(C)とカウェオール(K)の2本のピークができました。ジテルペンは確かにオイルに溶けています。
では次に、黒光りしている豆を挽いて、ドリップ式で抽出するとき、コーヒー成分はどんな挙動を示すでしょうか?図2を使って説明しましょう。
図2は、コーヒーの細粒をドリップ式で抽出するときの、オイルと成分の挙動です。細粒の表面にはオイルが浮いて、細粒とろ紙の境目にはオイルがへばりついています。ろ紙は細長いセルロース繊維の不規則な網目なので、その隙間に挟まったオイルは、湯の流れが緩ければ通り抜けることはありません。
焙煎豆のオイルにはジテルペンの他に香の成分が沢山入っています。これらは揮発性の小さな分子ですから、オイルにも湯(水、以下省略)にも溶ける性質(両親媒性)をもっています。どちらによく溶けるかは、化学構造によって異なるので、一様ではありません。湯の方に溶けやすいものは早く抽出されますし、オイルに溶けやすいものは湯にはゆっくりと溶けだしてきます。念のため繰り返しますと、ジテルペンは100%オイルだけに溶けて、湯に溶け出すことはありません。
ドリップ式抽出を上手に行うには、湯をゆっくりと、「細粒を掻き混ぜることのないように」と解説書には書かれています。そうすれば図2のオイルの位置は、一旦固定された場所を動くことはありません。その状態でゆっくりと湯を注ぐと、細粒の隙間をゆっくり通り抜けてくるのです。湯とオイルの接触面では、オイルに溶けている香りの成分(味は旨味系が多い)が、湯に溶けやすいものから順に湯に移ってくるのです。ですから抽出液に、オイルの味はなく、替わりに香の旨味が増しています。
●オイルがろ紙にへばりついている限りジテルペンが抽出されて湯に溶けだすことはない。
コーヒーを飲んで身も心も健康でありたいと思うなら、ドリップ式を採用してジテルペンを飲まないようにするのが良い。どうしてもエスプレッソを飲みたいならほんのたまににすれば良い。
(第349話 完)
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