健康な歯は元気な長寿の要件です。俗にいう「8020運動」とは、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という厚労省と日本歯科医師会が推進する公益財団事業です。自分の歯が20本以上あれば、何でも噛んで食べられるので、虫歯や歯周病を防ぎ、それが原因の慢性炎症を抑制して、加齢性疾患(心臓病、脳卒中、アルツハイマー病など)のリスクが下がるのです。


●しかし、そうは言っても現実はなかなか難しい。

 そこで先ずは「歯磨きを励行して歯の黄ばみをなくすことが大事」と、パリにある国際統合歯科アカデミーが、つい最近、論文を書いて黄ばみ予防を啓蒙しています(詳しくは → こちら)。ネットや雑誌の広告ではないので、根拠のある確かな内容になっています。以下はその要旨の抜粋です。図1を見ながら読んでください。


背景:歯の変色はさまざまな理由で発生します。紅茶やコーヒーや食用色素などの成分が歯に浸透するため、その汚れがエナメル質の多孔質構造に残る可能性があります。喫煙も歯の変色の一因で、タバコの煙の色素がエナメル質に蓄積します。加齢に伴い、エナメル質が徐々に侵食されて黄色い象牙質が露出すると、更なる汚れの蓄積が起こります。



ハイライト:歯を白くする天然成分の効果に焦点を当てて書いてあります。付着物を代謝して分解する漂白メカニズムにも触れています。調査した文献は、2000~2020 年に発表された科学論文です。


結論:天然物を使う歯のホワイトニングは、歯の表面を侵食することなく、歯の自然な色を効果的に明るくします。一方、過酸化水素と過酸化カルバミドを高濃度で含む市販のホワイトナーは、酸化プロセスによる歯の脱タンパク質化と脱灰を引き起こす可能性があります。広範囲に使用すると、これらの化合物は多くの悪影響を引き起こします。天然の歯のホワイトナーには、レモン、イチゴ、オレンジ、パパイヤ、その他の果物の成分が含まれています。このような天然成分は、過酸化水素や過酸化カルバミドを含むホワイトナーよりもマイルドで安全な方法で歯を白くします。』ということですが、実際には時間の掛かる厄介な行程です。


●一方ネット記事には、歯を着色する悪玉が並んでいる。

 記事のほとんどが広告で、着色した色素を脱色する歯磨き製品や、歯科が行っている技術の説明が面々と書いてあります(例えば図2)。如何にも効果的に書かれてはいるのですが、誰でも使える最善の方法について、学術的な定説は見当たりません。



●着色の原因となるコーヒー成分とは?

 義歯材料の品質検査で、コーヒーによる着色の有無が調べられています。検査で使われる方法としては最も一般的な方法のようなので、コーヒー成分の何が着色するのか気になります。1つヒントになるコーヒー調整法を書いた論文があります(詳しくは → こちら)。

 この論文による調整法は次の通りです。

【義歯着色用のコーヒー液調整法】市販のコーヒー豆(ブラジル)の顆粒3.4gを、熱湯300mLに加えてよく攪拌し、ろ紙を使ってろ過する。このろ液を37℃に保って保存し、着色実験に使用した。義歯材料の切片(または抜歯した歯)を溶液に浸漬して、そのまま37℃で7日間放置する。この実験結果は、コーヒーを毎日7ヶ月間飲み続けた場合とほぼ等しい。


●義歯材料に吸着したコーヒー色素は湯に溶け難いメラノイジンと考えられる。

 ネットで見るほとんどの記事で、着色原因の筆頭にコーヒーが書いてあります。上記した論文の実験がその根拠になっているようです。しかし、筆者が気にしているのは、「コーヒーの淹れ方」です。上に引用した実験では、3.5gのコーヒーを300mLの熱湯で抽出しています。これを筆者が勧める健康コーヒーの淹れ方(10gのコーヒーを30mLの湯でドリップ)と比較してみましょう。すると、実験用コーヒーは健康コーヒーの約30倍の熱湯を使って抽出しているのです。すると何が起こるかと言いますと、普通に飲むコーヒーには溶けてこない難溶性の色素(難溶性メラノイジン)が、実験用には溶け出していると推測できます。そして吸着平衡の理論から予測すると、難溶性メラノイジンは義歯材料に吸着し易いとなるはずです。


●コーヒーの難溶性メラノイジンとは?



 この図は、コーヒー豆を焙煎したときに起こるメイラード反応の概要です。コーヒー色の素であるメラノイジンは、深く焙煎した豆に多いメーラード産物の1種です。複雑な混合物ですが、大きく分けて「低分子と高分子」に分かれます。そのうち高分子に不溶性の色素が多く、歯を着色するのはこの部分と思われます。そして、健康コーヒー「希太郎ブレンド®の抽出液」には、このような高分子色素はほとんど入っていません(詳しくは第403話 → こちら)。


【まとめ】「コーヒーは歯の着色の原因」というのは本当です。でもそれは安物のコーヒーの話で、ドリップ式で上手に淹れたコーヒーで着色することはないはずです。市販のコーヒーには、溶けにくく歯にこびりつく高分子メラノイジンを多く含んでいる商品があります。「自宅で淹れているから大丈夫」と言っても、必要以上の湯を使って抽出すれば、やはり着色物質が混ざってきます。ドリップ式で正しく淹れたコーヒーには、高分子メラノイジンが入っていても微量です。乱暴に淹れる安物コーヒーはタバコに次ぐ歯の汚れの原因ですが、正しく淹れればそれなりに美味しいし、歯が汚れることはありません。

(第482話 完)