●カフェインの飲み過ぎは危険!
よく聞く話ですが、実は日本で初の死亡事故が2014年に起きて、翌年の暮にニュースになりました(詳しくは → こちら)。朝日新聞のニュース(ネット記事は現在消えている)を見た筆者は直ぐにブログに書きました。コーヒーやお茶に入っているカフェインの安全な摂り方の解説でした(詳しくは → こちら)。
●人気の大衆薬にはカフェインが入っている(詳しくは → こちら)。
世の中には「私は絶対にカフェインを摂らないので、お茶もコーヒーも飲みません」という人がいます。しかしそんなことはとても無理なことです。何故なら、頭が痛いときには頭痛薬を飲みますし、風邪を引いたら総合感冒薬を飲みます。こういうことを避けて生きることはとても難しいことです。だからと言って、身近な大衆薬を飲めば、ほぼ確実にカフェインを摂ることになるのです。この図は2010年にブログに載せたものすが、今もほぼ同じなので再掲します(図1)。
●薬の飲み方には不思議な言い伝えがある。
図1の大衆薬は筆者が子供のころからずっと売られているもので、そこにカフェインが入っていることは衆知の事実です。何故入っているかと言いますと、入れると良く効くという、頭痛薬アスピリン発見以来の言い伝えがあるからです。ただし子供用には、カフェインは強過ぎるという理由で入ってません。
ああそれなのにそれなのに、子供といっても高校生や大学生が薬を飲むときに、親は必ずといってよいほど、「お湯で飲みなさい」と言うのです。親だけではありません。薬局で風邪薬や頭痛薬を買うとき、薬剤師は「お茶やコーヒーでは飲まないで、ぬるま湯で飲んで下さい」と、いい大人たちに言うのです。カフェインの入っている薬を飲むときに、カフェインの入った飲み物で飲むのがどうしていけないのかと尋ねると、「カフェインの摂り過ぎになるからです」と答えるのです。もっと不思議な答えとしては、「カフェインは他の薬と相互作用するからです」などと尤もらしく答える薬剤師もいるのです。
大衆薬にカフェインを入れるのは薬がよく効くためなのに、カフェインの過剰摂取の話が混同されているのです。一種の社会現象なので、専門家も正しい判断ができなくなっています。この問題を正しく理解するために、今回は鎮痛薬の元祖アスピリンと、コーヒーの魅力の素カフェインが、どうして配合されて大衆薬になったのか、掘り下げてみたいと思います。この課題は薬の歴史として興味津々ですが、今世紀になるころから小児のアスピリンはライ症候群などの副作用のため市場規模が減って、替りに非ステロイド系抗炎症薬の痛み止めが主流になっていること、念のために書き添えておきます。
●アスピリンとカフェインは時期を同じくして双子のように実用化された。
マニアックな話で失礼します。ドイツの化学者フィッシャーが、カフェインの化学合成に成功したのは1899年で、バイエル社がアスピリンを合成したのは1897年でした。そしてこの双子のような2つを混ぜ合わせたBCパウダーという頭痛薬がオーストリアのクリニックで作られたのは1906のことでした。それが現在、売れ筋1位の大衆薬「解熱鎮痛剤」になったのです。
コーヒーから発見されたカフェインが有名になったのは、BCパウダーが良く効く薬だったからです。コーヒーが薬としての一面を担うようになった要因も、このBCパウダーにあったと想像できます。しかし、今の薬学部と医学部で教えている薬史学とか医学史にはこういう話は出てきません。
ではどうして筆者がそんな話を知っているのか、答えは簡単です。チャットGPTに聞いたからです。このAIは筆者の質問“When the combination of aspirin and caffeine started?”に僅か0.5秒で答えてくれました。
●AIの答えの中に“BCパウダー”が出て来た。
これがAIの凄い所だと思いました。そこで筆者はこれをキーワードにして、改めてネット検索をしてみました。すると現在米国で売られているBCパウダーには、初期の配合に加えて、アセトアミノフェン(コロナで有名になったカロナール)も配合されているのです。更に今世紀になると、「どうして解熱鎮痛剤にカフェインが入っているのか?」との専門家の問いに応えるため、複数の臨床試験が世界各地で実施されました。そしてカフェインが効いているという確かな証拠が出て来たのは、何とごく最近、今世紀になってのことなのです(詳しくは → こちら)。
図2をご覧ください。赤い棒グラフが6つの臨床試験をまとめて計算した結果です。現代版BCパウダー(アスピリン+カフェイン+アセトアミノフェン)を「飲んで2時間後に何%の片頭痛被験者が痛みを感じなくなったか」の平均値です。30.2%の被験者が有効、無効だったのは13.3%でした。
コーヒーとの関係が詳しく書いてある総説論文も出ています(詳しくは → こちら)。カフェイン入りの頭痛薬は、単独で、または他の治療法と組み合わせて、頭痛患者に広く使用されています。鎮痛薬単独と比較して、カフェインとアセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェンなどの鎮痛薬の組み合わせは、緊張型頭痛と片頭痛患者の治療において有意に高い有効性を示します。
ということで、日本で市販されている頭痛薬イブ(非ステロイド系のイブプロフェン;エスエス製薬)にもカフェインが配合されているのです。令和4年時点で、市販の解熱鎮痛薬に配合されている成分については、厚労省ホームページにまとめてあります(詳しくは → こちら)。
【まとめ】冒頭に書いたように、カフェインとアスピリンはほぼ同時に人工合成されて、どちらも薬として歩みを始めました。そしてオーストラリアのクリニックで2つを合わせて使うと頭痛が速く治るとの触れ込みで合剤が作られたのです。詳しいことは解りませんが、この発明の切っ掛けは、クリニックの医師か薬剤師が「アスピリンをコーヒーで飲むと頭痛が早く治る」ことに気づいたのではないでしょうか。もしそうだとすれば、現在の頭痛薬や解熱鎮痛薬は、コーヒーがなかったら見つかっていなかったかもしれません。だから、コーヒーは正に薬なのです。
【付録:チャットGPT】
Q:When did the combination of caffeine and aspirin start?
A: The combination of aspirin and caffeine has been used for many years as a pain reliever and to treat various conditions such as headaches, migraines, and menstrual cramps. The exact origin of this combination is not clear, but it is believed that the use of caffeine with aspirin began in the early 1900s.
One early example of a combination drug containing aspirin and caffeine is "BC Powder," which was first marketed in the United States in 1906. BC Powder is a brand name for a pain reliever that contains aspirin, caffeine, and sometimes other ingredients such as acetaminophen. Another early example is "Excedrin," which was first introduced in 1960 and contains aspirin, caffeine, and acetaminophen.
Since the introduction of these products, many other aspirin and caffeine combination products have been developed and marketed by various pharmaceutical companies. Today, aspirin and caffeine combinations are widely available as over-the-counter drugs in many countries.
(第501話 完)