シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒーは肝臓病の予防薬と言ってもよいくらいの飲み物です。アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝(NASH)、ウイルス性肝炎、肝硬変、肝癌・・・これらすべての肝臓病を予防する特効薬です。薬屋さんではウコンが最強の肝臓保護薬と言ってますが、そんなことはありません。ウコンの飲み過ぎは肝障害の原因ですが、コーヒーにそんな副作用はありません。


●肝臓病になってもコーヒーは飲んでよいか?


 昔のお医者さんは、「肝臓が悪いのだから、コーヒーは止めなさい」と言いました。今そんなことを言うお医者さんはヤブ医者になってしまいそう。肝炎の人も肝硬変の人も、コーヒーは病気の進行を遅くしてくれる妙薬です(詳しくは → こちら)。


 この総説論文によれば、まず第一には、健康診断でお馴染みの肝検査値GGT、ALT、ASTなどのどれもが、コーヒーによって低値を示すようになるのです。つまり、毎日コーヒーを飲んでいれば、少々のアルコールで肝炎になることはないし、なったとしても更なる数値の増加は起こらずに済む、正に「珈琲は百薬の王」なのです(詳しくは → こちら)。


 次に、肝硬変も同じです。コーヒー以外のカフェイン飲料はほとんど無効ですが、コーヒーは肝硬変を予防します。なかでもアルコール性肝硬変の予防にとって、コーヒーは最も優れた効果を示すのです。更に、肝硬変の患者さんがコーヒーを飲んでいれば肝臓癌に移行するリスクが下がることも分かっています。唯一、問題になるのは、肝臓癌の患者さんの場合です。


●肝臓癌で「抗酸化薬の癌増悪説」はどうなっているのか?


 これまでに、前立腺癌と大腸癌では、この仮説は成立していませんでした。患者はコーヒーを安心して飲めるし、飲んでいれば転移や薬剤耐性のリスクも低く抑えることができるのです。一方、乳癌については、コーヒーを飲んでいると死亡リスクが高くなるとの論文が、1つだけですがありました。乳癌の患者さんはとりあえずは要注意です(第298話を参照)。では肝臓癌ではどうなのか、患者さんにとって深刻な問題です。そこで文献を探してみました。


 肝臓癌で死亡した日本人患者96名と生存中の患者3444名を、毎日コーヒーを飲んでいた(飲んでいる)人と、飲んでいなかった(飲んでいない)人に分け、かつC型肝炎ウイルスに対する抗体(抗HCV抗体)の有無に分けて、死亡リスクを比較した論文が見つかりました(詳しくは → こちら)。


●HCVで肝臓癌になった人がコーヒーを飲むと、死亡リスクが低下する。


 この論文のデータを日本語で表にしました。見やすいように層別のフローチャートも描きました。これを精度の高いデータと見るには、調査対象数がかなり少なめなのが気になります。しかし、初めての論文なので、良いとするしかありません。



 データによれば、毎日コーヒーを飲んでいる群では、抗体の有無に関わらず、死亡リスクが軽減しています。毎日ではなくても飲めば減るように思えますが、統計学的有意差(p値)からは、更なる検証の必要性を感じます。


これとは別途に、ごく最近になって、セルビア人の食生活と肝臓癌の関係を調べた論文が発表されました。その中に、コーヒーと肝臓癌死の関係が書かれています。データによると、65歳以上の高齢者の群で、コーヒー習慣が肝臓癌による死亡リスクを下げるとのことです。


 以上、少ないデータではありますが、C型肝炎ウイルスが原因の肝臓癌は、抗酸化性のコーヒーを毎日飲んでいても、増悪することはなさそうです。つまり、この種の肝臓癌に「抗酸化薬による癌増悪説」が成立しているとは言えません。ですが、成立していないと断言するのも難しいので、筆者の一応の結論は下記のごとくです。


●肝臓癌に罹ったら、コーヒーが好きな人でも1日の量は2‐3杯までにしておくのが安心なのだ。


 その上で、精度の高いデータを期待して待つしかありません。


(第301話 完)


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