■多様な応用領域
―酒井教授がゲルの基本となる物理法則を次々と解明しても、適用部位や分野に合わせて物性を制御する方法を考えていく必要があるのでは。
そのとおりです。現在は、眼科や外科を中心に多くのアドバイザー医師がいます。開発プロセスは現場の医師との協働作業であり、臨床ニーズがあるからといって単純に製品化できるわけではありません。まず「当社ならこういうゲルで解決できるのでは」という提案をさせていただき、プロトタイプを作って実験します。そのデータを見て「こうした要素も欲しい」という要望をフィードバックしてもらい、プロトタイプを作り直すという過程を繰り返します。したがって、元の技術は同じテトラゲルでも、どんどんカスタマイズされて独自の製品が誕生します(図2)。
―開発プロセスにおける役割分担は。
当社がプロトタイプを作製し、主に大学の研究者および医師が基礎研究と動物実験を行って、ある程度有効性がわかるデータを出し論文化します。そのデータパッケージを以て企業にアプローチし、提携先企業に非臨床試験、臨床試験と順次進めていただき、最終的に世の中に出していくのが基本スタイルです(図3)。また、資金調達に縛られず適正な利益を得る方針でビジネスを進めています。
酒井先生は当社のチーフサイエンスオフィサーであり、あくまで基礎物理学を追求する立場です。基礎の開拓があるからこそ応用があり、応用で必要になったことを基礎で確認する“両輪”のバランスが当社の開発の要です。医療現場、基礎科学者と企業の三者をつないで製品化するという点で、日本でいちばん医工連携をしているスタートアップかもしれないと自負しています。
―提携先となりうる医薬関連企業に伝えたいことは。
医薬業界ではゲルに対する諦めのような見方があるかもれませんが、それは「ゲル1.0」「ゲル2.0」のイメージです。物理法則に基づく我々の「ゲル3.0」は全く別物で、生体内でハイドロゲルを作り、病を治し、不要なハイドロゲルを壊す「ハイドロゲルのライフサイクル」を視野に入れて分子設計します。「Gel Medicine」つまりゲルを体内に注入するだけで病を治療する新しい医療を目指しており、多くの可能性を秘めています。ぜひ一度話を聞いていただき、共同研究や開発を通じて患者さんに役立つゲル製品を世に出していければと思います。