■“とんとん拍子”は必然
―「MEDICA 2022」でのタムガイド®に対する反応は。
タムガイド®はシンプルな製品なので、質問内容は日本と海外で大きな差はありませんでした。ただ、現場の医師はひと目で良さに気づいてくれました。MEDICA自体、医師の参加は少ないのですが、「これはいつ発売するのか」「CEマークは取ったのか」など熱心に聞かれました。企業関係者は、この製品の目新しさに興味を持ってくれました。
―日本の展示会と異なる気づきはあったか。
4日間の会期中、当社のブースに来訪し名刺交換した企業だけで60社ほどになります。他の出展企業による自社製品の売り込みが多かった印象です。なんとかビジネスチャンスにつなげようとする意気込みがあり、全体の熱量は日本以上だと実感しました。
―2018年にタムガイド®の開発を開始、20年にはこの製品で東京都中小企業振興公社の「世界発信コンペティション」で優秀賞を受賞、21年に薬事承認、22年診療報酬改定で算定対象に追加…という流れから、驚くほど順調に思えるが当事者としての感覚は。
(三池氏は)これまで2社ほどベンチャーをつくってM&Aにてイグジットさせています。いろいろなネットワーク、知識や経験もありますので、そう見えるのかもしれません。初めてやる人ならできないとは思います。
―既に薬事承認を受け発売準備中の製品が東京都の出展支援を受けることが意外だったが。
実は「世界発信コンペティション」で受賞した年に出展予定でしたが、コロナ禍で20年、21年は東京パビリオンの出展が中断され、22年に実現した次第です。20年当時は薬事承認前で、細い方のタムガイド®ファイバーはまだ完成していませんでした。
―大塚製薬工場とは2019年から協力して先進的な医療機器開発に取り組み、21年には資本提携、23年1月現在タムガイド®発売準備中とのこと。開発初期から外部の企業と提携できた理由は。
「プロジェクト化手法」で常に内外の企業との協業を進めていますし、開発の要望をいただいた先生からの紹介もありました。大塚製薬工場さんは自社の経腸栄養剤があり、栄養の分野に強い。自社製品を用いる場面で医療事故が起こらないようにしたいという思いがあるのではないでしょうか。
―貴社サイトで謳っている、臨床と研究に必要な革新的な医療機器やアプリケーションの開発を目的とした「プロジェクト化手法」の具体的な内容は。
タムガイド®の場合であれば「栄養チューブを安全に患者さんに挿入できるようにする」プロジェクトです。既に製品化されたので製造はNCIから独立させて沖縄のNCIOが行い、販売は大塚製薬工場さんにお任せしています。
当社内でプロジェクト化したデバイスに資金を投入し、投資もしてもらい、大手企業の参画を得てうまくいくようにやっていく手法です。最終的にはM&Aによる売却も視野に入れています。そうしたプロジェクトが社内やスピンアウトさせたベンチャー企業として十数件あります。医療機器としての認可取得をプロジェクト参画企業と一緒に行うことで、医療機器市場の活性化にも努めています。
―自社経営陣と役職員のほか、大学、銀行、財団、商社、電機、製薬、物流と多様な7者が株主であることと「プロジェクト化手法」の関係は。
プロジェクト手法と大いに関係があります。ほとんどの医療機器で使う半導体でトップの商社、今後コラボレーションでの医療機器事業展開を望む電気メーカー、医療機器の取扱いを拡げていきたい物流企業など、当社と先方の相互にメリットがあります。
実は当社は平均年齢が高くて、それぞれ異なる幅広い領域の知識と経験があります。製品開発だけでなく協業にあたっても、さまざまな選択肢を示すことができる“水先案内人”となり得る人材が集まっています。医療(機器)の分野は新規参入のハードルが高いので、プロジェクト手法で一つ一つ製品を生み出し、適した企業につなぎ、アドバイスもするという流れです。
最終的に臨床現場のニーズを満足させるもの、かつ、患者さんのためにもなり、自分が大切な人の体に使って安心なものを世に出すことがいちばん大切だと考えています。
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NCIが「プロジェクト化手法」で扱う製品は多岐多様だ。「開発投資プロジェクト」として、BTカテーテル(タムガイド®)、迷走神経刺激カテーテルシステムなど7件、「提携プロジェクト」でメディカルリスニングプラグ、ポータブルCTスキャンなど5件、「社内プロジェクト」で神経プローブ1件が公表されている。医療機器を開発・製造する“メーカー”より、臨床現場に必要な革新的製品を創出し社会に送り出す“イノベーター”あるいは“ジェネレーター”の方がイメージに近いかもしれない。三池氏の仕事ぶりについて、鳥井氏、弟子丸氏は「魔法を使っているんじゃないかといつも思います」と口を揃える。中心メンバーの知識・経験・ネットワークの統合がその“魔法”を生み出しているのだろう。
[2023年1月17日取材]
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。