「ちょっと情けない」


 そんななか、米リリーは1月に「リリーダイレクト」と銘打った処方薬の直販サービスを開始した。患者自ら処方薬の「指名買い」ができるサービスで、保険者を通さずとも「自費」でお金を払いさえすれば、オンライン診療を受けて処方薬を手に入れることができる。


 例えばゼップバウンドの2.5mgバイアルは、月399ドル(約6万円)で購入可能。3月には米アマゾンのオンライン薬局とも提携し、患者宅への医薬品配送を委託している。肥満薬以外にも、糖尿病に用いるインスリンや、片頭痛薬の「エムガルティ」も選べる。


 IQVIAのグリーンウォルト氏は、こうした直販サービスであれば「保険者側が立ちはだかることはない」と強調。ファイザーなど、ほかの製薬企業も取り入れ始めている「新しい取り組みだ」と評価した。


IQVIA・グリーンウォルト氏はアマゾンの取り組みを評価


 だが、製薬企業が医薬品卸を通さずアマゾンで直販しているとなると、卸関係者は心中穏やかでない。会場からは、コンテルノ氏に対してこんな質問が飛び出した。


「リリーがアマゾンと直接販売を手掛けるのは、今までとは違う流通、卸の既存モデルとは違うもので脅威だ。私たちはどんなアクションを取っていけばいいのか」


 製薬企業の元幹部に真正面から助言を求める姿は「ちょっと情けない」(国内卸関係者)気もするが、それだけ卸の存在意義に危機感を覚えているのだろう。


 これに対しコンテルノ氏は、まずアマゾン側が「薬業界をどれほど大きい市場と捉え、参入したいと思っているか」の問題があると指摘。それでも、業界は「アマゾンがどうにかして参入してくることを視野に入れないといけない」と警告した。アマゾンが持つ“消費者ファースト”の強みは、肥満薬市場との相性がいい。アマゾン参入に備えて、とにかく「先手を打つことだ」と呼びかけた。


 総会のなかでは、リリーダイレクトなどの直販サービスの市場規模について具体的な数字が出ることはなかった。今後の普及は未知数だが、これまでになかった仕組みに卸が戦々恐々としていることだけは確かだ。


 ちなみに、ノボのウゴービにもテレビCMがある。ゴスペル調の「ウィ〜ゴ〜ビ〜」というCMソングが印象的だが、もとを辿れば映画「グレイテスト・ショーマン」の主題歌「ディス・イズ・ミー」の替え歌だ。


 企業側は「痩せた姿こそ本当の私」という意図でCMソングに起用したようだが、動画サイトのコメント欄は「太っている姿も本当の私だ」「好きな曲なのに不快」などと荒れ気味。消費者を直接相手にするのも、なかなか難しい面が多そうだ。