10月22日の業界誌が、前日の厚生労働省医政局の「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」の内容を報道した。主な内容は、限定出荷解除へ定期的な検討を促進することや、安定確保医薬品リストの医薬品数を基本的に増やすことだ。


全体の構図を見ない発言


 前者に関する厚労省と個別企業のヒアリングや、厚労省と日本製薬団体連合会との協議には膨大な労力がかかり、今後の法改正はもちろん、細部を詰めていく作業には多大な労力が必要だろう。社会保険庁長官を務めた堤修三氏は医薬品安定供給の法的根拠として「健康保険法による薬価基準収載行為に求めるほかはない」(*)としており、業者の安定供給義務を薬機法に書くのか(堤氏は明確に否定している)医療法なのかなかなか決着しないのは、これらの問題が背後にあるかと考えてしまう。


 一部業界誌では、関係者会議において日本医師会や日本医薬品卸売業連合会の構成員が「日本ジェネリック製薬協会(JGA)は何もやってこなかった」と批判したと報じた。JGAが「安定供給責任者会議」の設置を説明し、対応スキームとして、供給不安の懸念の発生時点で当該企業(A社)が医薬産業振興・医療情報企画課(産情課)に報告。A社は必要に応じ、JGA内の責任者会議に年間販売数量、供給停止時期等を示し、代替生産対応を要請する。同会議事務局は同成分を製造販売している協会加盟企業に情報提供し、増産可否をA社へ報告するよう連絡する。A社はそれら企業と個別に増産対応可能数量とその時期等をやり取りし、それを同会議に報告。そしてA社はその結果を産情課に報告し、増産が不十分な場合は類似品の利用を関連学会を通じて促す等の調整を行うというものである。


 ここに公正取引委員会の意見が絡み、A社と増産対応企業との直接のやり取りは問題ないが、責任者会議が間に入り増産対応可能企業との数量調整を行うことについては、公取委からOKと言われていないと報道にある。産情課医薬品産業・ベンチャー等支援政策室長も「この取組だけで限定出荷の問題が解決するとは思っていない」と述べている。


 確かに医師や卸は、後発品の供給不安の被害者であるし、怒りをぶつけたい気持ちが全くわからない訳ではない。しかし、先の発言は、全体の構図を見ない発言と考える。何故なら、何度も紹介するが、前産情課長は学会の講演(23年5月)において、「医薬品供給不足問題の責任の一端は厚労省にあり、この状況を改善する責任がある。使用促進が拙速だった。各都道府県の薬事監視(筆者注:GMP調査)体制が十分でなかった」と話し、さらに後発品の産業構造、薬価制度の課題、サプライチェーンの課題を指摘している(**)。厚労省や医政局からこの発言の否定を含め、筆者は何も知らない。


 23年3月には業界誌が、自民党総裁選に立候補した上川陽子前外相が、会長を務めた「ジェネリック医薬品の将来を考える会」のなかで、「使用促進目標のペース設定が適当だったのかと問題提起した」と報じた。もう少し段階的な目標引き上げであった場合と比べ企業にどのような影響があったかとJGAに尋ね、JGAは企業ごとの差別化、急速拡大のための資金借り入れ、人材育成で課題があったと答えている。また、堤氏も「少し前のめり過ぎたのであろう」と述べている。筆者は複数の記者から、13〜14年頃に財務省主計官が主だった後発品企業の社長を呼んで目標設定案を話したところ、一様に早過ぎると答えたと聞いている。それを強行したのは財務省であり、当時の安倍晋三政権ではなかったか。使用促進が拙速だったとの考えは、少数の意見ではない。


 さらに堤氏は、医政局の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」の対策を、「公衆衛生に関わる感染症薬の場合はともかく、それ以外の医薬品について国はここまで係わるべきなのか。まるで『国営医療』ではないか」と批判している(また医政局の報告書を越権行為の謗りを免れないだろうとしている)。筆者も医政局や財務省等の責任や後述のように医薬局の非常にまずい薬機規制が供給不安の原因の少なくともかなりの部分を占めていながら、関係企業に非常に細かいデータの提供を求め、がんじがらめにしている現状にやはり「国営」の危惧を持った。