10月1日号で同日から始まった、患者が長期収載品(後発品のある先発品)を希望した場合、一定の追加負担が発生する選定療養費制度について、導入前の医療機関の混乱ぶりを記した。約1ヵ月が経ったが、現状を紹介したい。
まず、多くの調剤薬局で、長期収載品を希望し費用負担が増える可能性のある患者に対し、事前に紙の資料で説明をしたので、混乱はなかったようである。私は10月初旬に、「患者への説明や後発品の調達などで薬局の業務が煩雑化するから」との依頼を受け、複数の薬局のヘルプに入った。港区六本木や麻布周辺、中央区や千代田区などの薬局で、富裕層が住むとされる地域だ。私が受けた患者の差額は数十円〜1000円未満が多く、数百円の場合にはあまり変更インパクトがないように感じた。
差額を聞いて「そのくらいなら支払います」と長期収載品をそのまま希望する患者が多かった。この辺りは、富裕層の住民が多いこともあるが、働いている人も大勢いて、多忙なのか差額を聞いても男女問わず「そのまま(長期収載品)」との希望が多かった。ただ、私は数千円の差額が出る処方箋は担当していなかったから、このような結果になったかもしれない。とにかく数百円の差額では動じない様子だったが、年間の負担を計算すると……と感じた。そこまでの計算結果を資料で示す薬局は、大手チェーンくらいで、ほとんどは対応していないようだ。
余談だが、私はある著名人の処方箋も担当したが差額が800円程度とお伝えしたところ、長期収載品のままとなった。こういった地域ではどの程度自己負担が増えれば後発品に変えてくれるのだろうかと、興味が沸いてしまった。
知人の薬剤師が勤める薬局では負担が数百円増えてしまったことで怒った患者が数人いたという。「医師に処方箋を書き直してもらう」と意気揚々と戻っていった。うるさ型の患者に対しては、今回限りなのか書き換えていた事例もあったようである。
小児患者は自己負担がゼロになるケースが多いが、今回は「ヒルドイド」などで自己負担が発生した。それで怒る親御さんはいないが、「いつも支払いがないので財布を持っていない」「手持ちのお金がない!」と近くのATMに走ったりといったケースがあった。
少し興味深かったのは、後発品のほうが薬価が高いなど選定療養費対象外の事例だ。薬剤師から「差額がない」と言われると「後発品から(長期収載品に)変えたい」という要望があった。「ムコスタ」や「ロキソニンテープ」などは、「支払いが変わらないなら先発品(長期収載品)にしたい」と患者数人に言われて驚いた。今後、製薬企業のマーケティングで、薬価を後発品と同程度まで下げるという戦略がとられると後発品企業の存在はどうなるのだろうと、考えるきっかけとなった。
首都圏を中心とした私の周囲の事例だが、選定療養費の影響をもう少し定量的に把握したく、時期をみて医師へのアドホック調査の実施を検討したい。