参院選中の22年7月8日、銃撃事件が発生し、安倍晋三元首相が銃殺された。その9ヵ月後、衆院補選中の23年4月15日には、岸田文雄首相を標的にした襲撃事件が発生し、投げ込まれた鉄パイプ爆弾により聴衆の男性ら2人が負傷した。


 そして、今年の衆院選中の10月19日午前5時45分頃、永田町の自民党本部に向けて、軽ワゴン車を運転していた臼田敦伸容疑者(49)が火炎瓶のようなものを複数投げ込んだ。引き続き同車で逃走し、数百メートル離れた首相官邸前の車両侵入を防止する柵に乗車したまま突入した。突入を阻止された後は、下車し、警備中の周囲の警察官に発煙筒のようなものを投げつけた。両襲撃事件において負傷者はいなかった。


 犯行に使われた軽ワゴン車は、臼田容疑者自身名義の白色で、屋根に荷物搭載棚が設けられた、一見すると作業に向かう資材運搬車に見えたが、約20個のポリタンクと高圧洗浄機が積まれており、ポリタンク内容品の大半はガソリンだった。自民党本部の正門前から、敷地内に向かって投げ込まれた火炎瓶約5本により、門扉付近や警察車両の一部が焼けた。


 軽ワゴン車から使われなかった火炎瓶が数本見つかり、火炎瓶は自作で、ガラス瓶内の液体に布を浸す形状になっていた。側面には着火剤とみられるものが粘着テープでつけられ、投げて着地した際に割れて発火するしくみと見られている。


 20年2月1日以降、ガソリンの適正な使用を徹底するため、ガソリンを携行缶で購入する際、


① 本人確認

②使用目的確認と販売記録作成


 が義務付けられるようになった。携行缶は堅牢な金属製容器とされ、灯油用ポリタンクに入れることはできない。これらは、19年7月に京都市伏見区で発生した、京都アニメーション放火殺人事件の再発防止のため20年2月1日に施行された消防法による。しかしながら、1度、乗用車(レンタカーで可)に給油した後にポリタンクに移してしまえば。同法の規制を免れられる。臼田容疑者は日数をかけて20本ものポリタンクにガソリンを集めたのだろう。火炎瓶に用いられた劇薬らしき薬品も、法規制の抜け目を利用して購入したと思われる。


 今回の事件は実行犯の自分が死ぬことも厭わない「自爆テロ」と言える。模倣犯も今後は増えるだろう。思惑どおりに実行できたのならば被害は、国会議事堂、首相官邸と道路を挟んで面している衆院第一議員会館、坂の下に位置するホテル、日枝神社まで及んだことだろう。


 臼田容疑者は車を首相官邸前の防止柵で止められることは想定していたはずである。発煙筒で警備の警察官を牽制している間に、高圧洗浄機でガソリンを首相官邸敷地内に噴き付けて、火炎瓶で着火させる計画だったのか。霧状となったガソリンに引火すれば、燃料気化爆弾のように大爆発に続く炎上となったかもしれない。単独犯のため阻止されたが、複数犯であれば実行は可能であっただろう。


 ポリタンクの中身がガソリンのみではなく、粉末洗剤と混ぜることでゲル化し、それを爆散させれば、焼夷弾のように炎が飛び散り、大火となったおそれもある。