製薬業界の最近の話題で目立つのは、なんと言っても大手やベンチャーが開発する抗肥満薬関連のニュースである。大手が取り組むもうひとつの研究開発の新しい潮流では、放射性リガンド市場へ参入するべく、それを開発しているベンチャーを買収するニュースが23年終わりから相次いでいる。


 放射性リガンドで最初のブロックバスターとなったノバルティスのPSMA陽性患者の前立腺がん薬「プルビクト」(日本は第Ⅲ相)の成功を受け、イーライリリーがポイント・バイオファーマを14億ドルで23年12月に買収し、ブリストルマイヤーズ・スクイブはレイズバイオを41億ドルで買収した。


 サノフィはオラノ・メッドの子会社ラジオメディックスと有望な放射性リガンド薬の権利を最大3億5000万ドルを支払ってライセンスした。ノバルティスは放射性リガンドを強化するため、マリアナ・オンコロジーを10億ドルで買収し、最大7億5000万ドルのマイルストンを支払うことを5月に発表している。また、アストラゼネカは次世代の放射性結合体を開発しているフュージョン製薬を約20億ドルで買収し、特定した製品が承認された場合に約4億ドルを支払うと5月に発表している。


 米国で22年3月に承認されたプルビクトは24年通期で14億ドルを超える見込みで、ピーク時50億ドル以上を見込んでいるものの、どこのCMOでも製造できるわけではないという製造の問題がある。ノバルティスは米国でニュージャージー州と中西部インディアナポリスに2つの製造施設を持つほか、西海岸のカリフォルニア州に新しい施設を2億ドルを投じて建設中。現在の放射性リガンド薬はプルビクトとノバルティスの「ルタテラ」が主な製品であり、今からの開発・承認申請では、プルビクトから数年遅れることになる。


 ここでは最近、最もホットな話題である抗肥満のGLP1製剤関連の最新の市場データやニュースについてまとめる。イーライリリーは消費者向けの直販サイト「リリーダイレクト」を開設しており、抗肥満薬「ゼップバウンド」を既存の注射キット(アテオス)ではなく、自分でバイアルから必要量を注射する製品をほぼ半額の月399ドルで提供し、アマゾンファーマシーを通じて自宅配送も実施している。


 このメーカー直販はファイザーも8月終わりにオンライン診療を通じ新型コロナウイルスの抗ウイルス薬「パキロビッド」や経口の片頭痛薬「ナーテックODT」などを直接販売する「ファイザーフォーオール」のサイトを開設している。これら直販の流れは、通常の薬局を通じた販売では、薬剤給付を管理するPBMにメーカーが30%以上のリベートを支払わないと採用してもらえず、それがなければもっと安く販売することも可能という米国独特の問題がある。


 9月24日には米上院の公聴会にノボノルディスクのヨルゲンセンCEOが呼ばれ、「オゼンピック」と「ウゴービ」の薬価を引き下げるよう求めた。しかし、インスリンの「レベミル」や「ノボラピッド」の薬価を24年1月に65%以上引き下げたところ、PBMはリベートが少ないのでレベミルを採用品目から除外した。そのため、オゼンピックなどの薬価を引き下げると、PBMが採用しない恐れがあるが、PBMがリベートは減っても採用するならPBMと話し合い、患者負担が下がる確証があれば、薬価引き下げに応じる用意があるとした。