ここまで、滋賀医科学大医学部附属病院の岡本圭生医師による前立腺がん小線源治療の継続を求める患者団体の活動や裁判闘争の経過を見てきた。滋賀医大は患者団体からの要望に正面から向き合おうとしなかったばかりでなく、「医療安全管理」に名を借りた、岡本医師の治療に対する「ネガティブキャンペーン」とも言うべき行動に出た。しかし、それは著しく透明性を欠き、岡本医師の治療患者に発生したとされる有害事象に関する評価を求められた外部医師から批判の声が上がるほどだった。
連載第14回で取り上げたように、2018年11月、自身の患者のカルテが同じ病院の泌尿器科医によって無断閲覧されていることに岡本医師が気づいた。それは前立腺がん患者らが滋賀医大泌尿器科学講座の河内明宏教授と成田充弘医師を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こしてから約3ヵ月後のことだった。岡本医師は滋賀医大の公益通報窓口となっている弁護士、続いて厚生労働省に無断閲覧の事実を通報した。滋賀医科大学前立腺癌小線源治療患者会(以下、「患者会」)は19年1月16日に厚生労働大臣に早急な調査を求めた。
同年1月25日、滋賀医大公益通報調査委員会の小笠原一誠委員長から「泌尿器科医師による電子カルテの閲覧は、本学医学部附属病院医療安全監査委員会の要請に基づき、業務上行った」などとする通知文が岡本医師のもとに届いた。滋賀医大病院の前立腺癌小線源治療に関する報道を受け、18年9月開催の医療安全監査委員会で「診療内容を複数の医師の目で検討しておくことは、医療安全の課題としては極めて重要な提起であると考えられるため、説明同意書や診療録等について調査を行うこととなった」と記されていた。
医療安全監査委員会は、群馬大学病院や東京女子医科大学病院で起きた深刻な医療事故をきっかけとする医療法施行規則の改正(16年6月10日施行)で、特定機能病院の管理者の責務として設置が義務づけられた組織である。
「滋賀医大病院の前立腺癌小線源治療に関する報道」とは、朝日新聞の18年7月29日付朝刊の記事だが、記事が伝えたのは「前立腺癌小線源治療学講座について」ではなく、泌尿器科医師によって未経験の小線源治療を受けさせられようとした患者とその遺族が説明義務違反を理由に損害賠償訴訟を起こそうとしている動きであった。患者会は、岡本医師の小線源治療自体に問題があったとは言及していない新聞記事をきっかけに、患者らが問題視している行為をした泌尿器科の医師がなぜ岡本医師の患者のカルテを精査するのか、といった疑問を問いただす公開質問状(19年2月4日付)を滋賀医大病院の松末吉隆病院長に送ったが、病院長はその疑問に正面から答えようとはしなかった。