比較してわかるのは各ビジョンがその時の会長の意向のみならず時代背景を色濃く反映しているということ。見方を変えればトップの好みで簡単に変質するともいえる。政治色の強すぎた御手洗ビジョンに盛り込まれた改憲や国歌斉唱、国旗掲揚はその後話題にもなっていない。そこまで政治にすり寄る必要があったのかとの批判が出てくるのは当然だろう。
かつては、首相に退陣を迫った財界総理がいた。政治とはある程度距離を持つことが肝要ではないのか。榊原ビジョンに至ってはこれまでの活動をなぞるだけで注目すべき内容は見当たらない。必要性に首をかしげざるを得ない。
さて、焦点の十倉ビジョンはどんな中身か。持論の持続可能性(サステナブル)をキーワードに「成長と分配の好循環」「分厚い中間層の形成」に向けた取り組みを通じて2040年の日本の将来像を描く内容となりそうだ。先の経済財政諮問会議で十倉が発言した高齢者年齢の70歳への引き上げなども盛り込まれるだろうか。このほか、公正・公平で持続可能な全世代型社会保障制度の構築、原子力の最大限活用や革新炉・核融合の研究開発推進をはじめとするエネルギー政策の展開や主体的な外交の推進などが加わる見通しだ。 (一部敬称略)