時感
文庫化
コロンビアの作家、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が今夏、とうとう文庫化された。題名は広く知られているものの決して取っつきやすい作品ではない。にもかかわらず、海外小説としては異例のベストセラーとなったという。ちょっとしたニュースにもなっており、刊行直後から書店で平積みになっていたであろうに、20年以上文庫化を待っていた私は、秋口までそのことをすっかり忘れていた。
大学卒業後、資格試験のために2年ほど浪人生活を送っていた。先の見えない鬱々とした精神状態を抱え、自宅と予備校以外の居場所を求めて頻繁に足を向けていた地元の図書館で、はじめてこの名作のハードカバーを手に取った。理屈に凝り固まったアタマでは読み進めることも困難な(というより億劫な)民話的手法になぜか惹かれ、それでも可能な限り“左脳”で読み解こうと、返却期限まで「系図」と睨めっこしながらメモを取りつつ読み返した記憶がある。
それはただの現実逃避で、自身の怠惰な性格ゆえ浪人に身を落とすことになった私の、ヒマ人らしい空虚な試みではあった。同じベクトルの熱量を試験勉強に費やしていれば、あるいは違う人生を歩んでいたかもしれぬ。でも、この空しい作業に真顔で向き合うことに疲れを感じなかった自分は、やはり業界紙の仕事のほうが向いていたのだろうと、いまは思う。
近所の書店で手に入れた文庫版『百年の孤独』はいまのところ“積読”状態で、ほかの多くの書籍とともにリビングの本棚に並べてある。ページをめくる気になかなかなれないのは、この四半世紀弱でさらにアタマが固くなったからだろうか。そもそも文庫という体裁は、この作品にあまり馴染んでいない気もするし、スキマ時間に手に取るのに適した本でもない。まとまった時間ができたら、腰を据えて読み返そう。 (小島)