ヒトの短い一生と比べて遥かにスケールの大きい時空の現象を扱う天文学者にとって、星の一生の最後に立ち会えることは、願ってもない研究者冥利だと聞いたことがある。断末魔を迎えつつあるオリオン座の赤色α星・ペテルギウスなどは、彼らの関心を集める最たる天体であろう。
翻って極東アジアの島国で、赤い星をロゴマークに掲げたアステラス製薬である。潰れる会社がまず出ないとされる国内製薬業界のなかで同社は、連結売上高の5割弱を占める前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れが27年に迫りながら、その〝対策〟がことごとく上手くいかず、経営の先行きに黄色信号が灯っている。こちらは、業界ウォッチャーらの耳目を集めている。
具体的な蹉跌の例については、小誌の今年6月15日号で紹介した。1番打者として大きな期待を集めた更年期障害治療薬「ベオーザ」が見事に空振りした後、続く尿路上皮がん治療薬「パドセブ」、胃がん治療薬「ビロイ」、腎性貧血治療薬「エベレンゾ」といった上位打線の面々も貧打に終わり、ビハインドを覆せなかった。焦った安川健司会長と岡村直樹社長は同社としては過去最大となる約59億ドルを投じ、緊急大型補強選手として米アイベリック・バイオから加齢黄斑変性症治療薬「アイザーヴェイ」を手に入れた、というところまでは報じた。
ところが、彼らが背水の陣で投入したこの新人バッターも躓いた。まず10月末、欧州での販売承認申請を取り下げざるを得なくなった。詳細は明らかにされていないものの、欧州医薬品庁(EMA)傘下 の欧州医薬品委員会(CHMP)との議論の結果、承認が難しいとの結論に至ったのだという。
悲報は11月に入ってからも続いた。今度は米食品医薬品局(FDA)が、アイザーヴェイの投与期間延長に関する一部変更承認申請に対して「No」との回答を寄せてきたのだ。こちらはアステラスが提出した治験データの統計処理に問題があったようで、同社ではFDAと協議のうえ、再申請する意向のようだ。今のところ、首の皮一枚でつながっている。
アイザーヴェイに関してアステラスは、つい1年前まで、ピーク時売上高が2000億〜4000億円に達すると豪語していた。今年に入っても、この暗いニュースが到来するまでは強気の姿勢を崩さず、25年3月期に695億円の売上げを皮算用していた。だが、さすがにここに至っては、下方修正は避けられまい。
この想定外の展開には株式市場もショックを受けた。10月31日時点で1795.5円であった同社の株価は11月に入ると下げ足を速め、FDAからのネガティブメッセージが届いた19日には一時、1544円まで急落した。足元も1600円前後を這っている。仮にFDAに再申請しても承認取得の時期が予定より半年から1年遅れとなり、イクスタンジのパテントクリフの克服は一層困難さを増すだろうとの見通しだけでなく、海外売上高比率が8割を超えるグローバル企業でありながら、一向に目利き、腕利きの会社に脱皮できない同社の姿に愛想を尽かした面も少なからずあるようだ。