「マーケット・イン」の発想を
とはいえ、難癖を付けるだけでは生産的と言えないので、この機にいくつか提案を試みたい。まず、市町村には図のような3つの事業の絵に囚われず、柔軟に仕組みを検討することが求められる。具体的には、何か新しい取り組みをゼロから始めるのではなく、既存の施策や実践を少しずつ改善する努力である。
例えば、高齢者や障害者の支援に際して、「引きこもりなど家族に支援を要する人はいないか」といった形で少しだけ関係課や専門職に関心を持ってもらう方法である。多くの市町村では重層に対応するため、「相談窓口を整備する」「多職種・多機関連携会議をつくる」など形式から入っているようだが、これでは「複雑な案件の押し付け合い」「会議のための会議」が起きるだけで、形式主義的な運用が続き、疲弊感を増すだけである。
さらに、地域づくりや参加支援に関しても、行政が主導する教室や交流会だけでなく、住民や企業がつくる場にも目を向ける必要がある。多くの市町村では「行政の場だけが資源」と固定的に考えたり、「住民を巻き込む」などと言いつつ、行政主体の場に参加する人を増やしたりする傾向が見られるが、こうした発想では重層がめざす姿に近付くことはできない。
最後に、市町村を支援する国や都道府県にも注文を付けたい。往々にして国や都道府県の説明会では、行政説明→好事例の報告→好事例の「横展開」が意識されるが、これまで述べたように、重層で求められるのは柔軟な発想とスタンスである。企業の経営で言うと、売りたい商品を市場に押し出す「プロダクト・アウト」ではなく、市場のニーズから商品をつくり出す「マーケット・イン」の発想が求められる。単なる「横展開」という安直な方法ではなく、市町村の実情に応じた伴走的な支援が求められる。