経営陣は結果責任を負う


 そもそも、Meiji Seikaの言い分を信じる人が、どれだけいるのだろうか。ワクチンの製造には時間がかかる。冬季の流行時期までに製造していなければならない。これには大きな先行投資が必要だ。ファイザーやモデルナなどの先行メーカーが存在するなか、彼らから3年以上遅れて、Meiji Seikaが新製品を市場に投入し、シェアを獲得するのは容易ではない。同社が独自の判断で、コスタイベ427万回接種分の製造を決め、そのことを厚労省と約束したのなら、大きなリスクをとったことになる。経営陣は、結果責任を負う。


 案の定、コスタイベは売れていない。明治HDは、11月11日に開催した24年度第2四半期決算説明会で提示した資料で、「『コスタイベ』に関する売上高および費用、配賦額などを見直し」、下期の営業利益の見通しを100億円下方修正している。


 いただけないのは、その説明だ。彼らは、その原因として、「反ワクチンの動きによるワクチン接種率への影響」を挙げている。これは牽強付会だ。


 私は、「反ワクチンの動き」がなくても、コスタイベは使われなかったと考えている。先行するファイザーとモデルナが販売するワクチンについては、全世界で膨大な使用経験があり、効果と副反応の検証が進んでおり、許容範囲というコンセンサスが形成されているからだ。


 23年の世界のコロナワクチンの市場規模は約260億ドル(1ドル150円換算で3兆9000億円)で、売上高トップはファイザーの「コミナティ」で約130億ドル(約1兆9500億円)、ついでモデルナの「スパイクバックス」が66億ドル(9900億円)で続く。両社で市場の75%を占める。両社による寡占である。コロナ流行後、多くのメーカーがコロナワクチンの開発に乗り出したが、両社が勝ち残った。


 コスタイベは違う。親会社は、過去に5つの臨床試験を実施しているが、このうち結果が論文として公開されているのは、「ARCT-154-J01」「ARCT-2301-J01」「ARCT-021」の3つだ。このうちARCT-021は、第Ⅰ/Ⅱ相試験で、安全性に関する情報は限定的だ。残る2つをMeiji Seikaファルマは第Ⅲ相試験としているが、いずれも物足りない。


 この2つの臨床試験は、登録者を、コスタイベか、ファイザーあるいはモデルナ製のmRNAワクチンに無作為に割り付け、接種後約1ヵ月での免疫反応を評価することを主要評価項目としている。


 それぞれの試験でコスタイベが投与されたのは、420人、464人に過ぎず、この程度の数では1%の頻度で発症する副作用しか検出できない。ワクチンの安全性で議論される1万分の1の頻度での安全性は保証されない。コスタイベは、新規作用機序を有するワクチンで、副反応も未知のはずだ。このデータで安全性を主張されても、普通の臨床医は信じない。


 第Ⅲ相試験で、抗体価という代替エンドポイントを主要評価項目に掲げることには違和感がある。ワクチン開発では、ときに抗体価の上昇が、実際の感染予防に結びつかない。コスタイベが新規作用機序を有するのなら、抗体価の上昇が、実際に臨床的に有用かわからない。Meiji Seikaは、実際に感染予防や重症化予防を第Ⅲ相試験で示すべきだ。


 現時点の情報で、コミナティやスパイクバックスより、コスタイベを使用する臨床医は希有な存在だ。このことは、Meiji Seikaも予想していただろう。