国際的な常識でも理解できない
会議資料からわかる齟齬の内容は、製造方法では「全量を一度に投入すべきところ、少量ずつ投入していた」「原薬・添加剤を一度に混合するところ、添加剤と原薬を少し袋の中で混合してから投入していた」「添加物名の誤記載(ビとピ)」「承認書と実態とで製造時の圧力は同一ではあるが、単位の表記が異なる」。
規格及び試験方法では、「pH測定時の試験溶液量が承認書では10mlとされているが、pHメーターが浸漬できるように20mlとしていた」「分析装置の部品の規格が実態では異なっていた(承認書ではHPLCのカラム径は約4mmに対し、実際は4.6mm)」「品質試験における計算式の誤記(承認書上では分母と分子の項目が逆に記載されていた。現場では正しい計算式で計算していたため結果に問題はない)」である。これらはすべて品質、安全性などへの影響から、回収対応も検討する必要がある重大な相違ではない。
しかも10月30日に出された自主点検後の手続きに関する通知や事務連絡では先の誤記を含めすべてが「相違」なので、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の後発医薬品変更届出事前確認簡易相談(1回16万円)を受ける必要がある。1回と1件は違うようだがそれも曖昧である。相違とされない誤記等でもPMDA相談(この場合は無料か?)が必要で手間がかかるし、同日の事務連絡の表1「相違としないもの」でも、「ただし、分析の真度、精度への影響がないことが確認されている場合に限る」とある場合は、真度・精度の確認の試験が必要となる。
このレベルになると、筆者の常識でも、国際的な常識でも到底理解できない。他の場合には「リスクベース」と言いながら、何故このようなリスクのない場合に、お金を徴収し、無駄な試験や点検をやらせるのか。筆者には、当局は日本で医薬品を製造させたくないのだと、また安定供給への回復をできるだけ遅れさせたいのだとしか思えない。銀行業界の大合併の際に拒んだ銀行に対して、金融庁が異例の調査に入り、多分かなりの意地悪をして合併を呑ませたという風説があるが、それを思い出さざるを得ない。
耐えている業界は、品質保証・品質管理の人材を無駄に使い、それらの人たちの仕事は面白くない。一方の規制側(厚労省・PMDA)は日本人なので「組織のため」と言えば、あっという間に良心の呵責は消えるのかもしれないが、くだらないことをやらせているとの自覚を持つ人は少なくないだろう。英語さえできれば、外国の規制当局や企業でより合理的で、時代の先端を行くような規制・審査に関わることができるチャンスもあるのに。
加えて驚くべきは医学部客員教授の座長、医師会・薬剤師会などの構成員の発言内容であるし、発言が伝えられていない元薬系技官らの構成員を含め、気持ちを聞いてみたい。一応肩書を見るとそれなりの人々が集まっているが、何故このような発言になるのか、まったく理解できない。この意味のない自主点検のメリハリをつけた定期化の話まで飛び出している。業界の構成員たちの心中は察してあまりある。8月1日号で書いた6月25日の日本製薬団体連合会の自主点検実施に関するWEB説明会で紹介した説明資料中の「これで最後なんですね?」に、関係者の率直な気持ちが出ている。まったく地獄絵や悪夢あるいは出来の悪い漫画の世界である。無駄の極致である。
このようなことも、武田テバが日本からの撤退を決めた一因ではないのか。今回の点検対象には先発会社の製品も一部入っており、もし会議の模様や厚労省の政策等が英語に訳されて本国に伝達されていたら、本国の社員の驚きは如何ばかりであろうか。驚かれないとしたら諦められている。それにしても医師会や薬剤師会の役員たちにはもっと勉強してほしい、そうでなければ、日本の政策を過たせる彼らは構成員に不適格である。
GMP調査のPMDA・都道府県の分担についても、薬事規制のあり方検討会で、県では無理だと言っていたのは当の医師会構成員ではなかったか。何故、今度はその副会長が制度部会で、県の能力維持が大事と言うのか、説明が必要である。GMP調査分担の遅れも日本の政策を過たせるもので、今回のケースと合わせ、将来に大きな禍根を残すであろう。医療機器業界の人が「薬機法は日本の法律で唯一、業界の発展を邪魔するもの」と言っていたが、その慧眼は否定できない。
医師会役員と言えば、中央社会保険医療協議会で保険(支払い)側の他の委員と一緒になって、薬価改正後から数ヵ月で、業界側出席者に対し、意識変容のみで開発戦略が変わっていないとか、成果が出ていないとか、およそ医薬品開発の知識に欠け、国際常識とは異なることばかり言っている。やはり適格性に大きな疑問符を付けざるを得ない。