岡本医師に弁明の機会なく


 調査報告書によれば、外部の医師の評価で21事例中13事例が重篤な合併症(直腸出血、血尿、骨盤内感染、放射線尿道炎)と認められ、これらの合併症については「事前の説明と同意が必要な合併症」と判断された。


 滋賀医大は調査報告書を岡本医師に示さないまま、当時岡本医師との間で係争中だった治療妨害禁止仮処分事件の証拠として裁判所に提出した。


 この仮処分事件では、大津地裁が19年5月20日、滋賀医大に対し、19年7月1日〜同年11月26日までの間、岡本医師の小線源治療を妨害してはならない、と命じる決定を出した。同地裁は滋賀医大の保全異議も認めず、同年8月22日に治療妨害禁止命令を認める決定をした。それを不服とする滋賀医大は同年9月2日、決定の取り消しを求めて大阪高裁に抗告し、同時に調査報告書を証拠として提出した。同年9月6日付保全抗告理由書には、「最近になって、債権者(※筆者注=岡本医師を指す)の患者において、債権者による小線源治療と因果関係が認められる多数の合併症があったことが事例調査検討委員会で報告された」と記されている。


 これに先立ち、田中俊宏・医療安全管理部長名の書面(19年8月22日付)が岡本医師のもとに届いた。その書面は、9月24日までに13例の合併症報告をするよう求めるものだったが、岡本医師が診療を担当したどの患者が13例に該当するのかという、肝心の情報が記載されておらず、調査報告書も添付されていなかった。岡本医師は代理人弁護士を通じて、13例を患者名やID番号によって特定するよう求める書面(9月2日付)を田中部長に送った。


 その書面では、岡本医師に弁明の機会を与えることもなく、医療安全管理部が問題視した件数だけを掲げて意見を求めることは、内容的にも手続き的にも問題があると指摘した。さらに、滋賀医大病院の規程で、事例調査検討委員会は「重大なインシデント等が発生した場合における原因の調査と究明及び必要な対応策について審議する」ため置かれると定められていることを指摘したうえで、いつ、どのような理由で「重大なインシデント」と認定されたのかを明らかにするよう求めた。


 田中部長は岡本医師側の質問に答えないまま、10月2日の岡本医師との面談で初めて患者ID番号を示し、3週間後までに合併症報告を提出するよう繰り返し求めた。


 この面談の2日後の10月4日、患者ら4人が滋賀医大泌尿器科学講座の河内明宏教授と成田充弘准教授に損害賠償を求めた訴訟(以下、「説明義務違反訴訟」)で、被告の河内教授らの側が調査報告書を証拠として提出した。被告側は同日付の準備書面で、岡本医師の小線源治療について「複数の看過できない合併症が指摘されるなどもした」と述べた。


 田中部長との面談で13例の患者IDを示された岡本医師はカルテを精査したうえで、田中部長に書面(19年11月6日付)を送った。それは、18年9月14日に開催された医療安全監査委員会の問題提起をきっかけに滋賀医大が行ってきた岡本医師の患者のカルテ調査から事例調査検討委員会による評価、調査報告書の裁判所への提出に至る一連の行為に対する岡本医師の「重大な疑義」について説明を求めるとともに、13例の調査結果に対する反論を記したものだった。


 それによると、岡本医師と放射線科の河野直明医師の2人で行ってきた小線源治療で副作用や有害事象が起きた場合、基本的に直腸出血は河野医師が、尿道出血は岡本医師が担当することになっており、直腸出血のグレードは河野医師が判断していた。岡本医師は河野医師が作成した診療記録などに基づき、事例調査検討委員会がグレード3b(※筆者注=入院日数の延長など濃厚な処置や治療を要する傷害)と判断した9例の直腸出血のうち、11年に外照射を併用した治療で直腸出血が起きて輸血を行った1例のみがグレード3bに該当すると述べ、他の直腸出血例については事例調査検討委員会の判断に疑問を呈した。


 その1例は、11年10月〜同年12月に外部照射併用で行った治療後に起きた直腸出血である。岡本医師によれば、河野医師は13年6月の診療録にグレード1の直腸出血が認められると記載した。この患者に対しては、滋賀県内の自治体病院でAPC(※筆者注=高周波電流をアルゴンガスとともに流して止血するアルゴンプラズマ凝固法)が行われたが、田中部長宛ての書面で岡本医師は、河野医師が直腸出血は軽度でAPCはすべきでなかったと診療録に記載し、小線源治療後の軽度な直腸出血に対して必要がないにもかかわらず、安易なAPCが小線源治療担当医に無断で消化器内科において行われる危険性を、この症例を引用して学会でも発表している、と指摘した。