WHOがワクチン開発を急ぐ優先病原体リスト
世界保健機関(WHO)が、新しいワクチンが緊急に必要な病原体をリストアップした。WHOが発表した新たな研究は、ワクチン開発の優先順位の高い病原体を特定し、地域的な疾病負担や抗菌薬耐性リスク、社会経済的影響を通じて病原体を評価する初めての取り組みだ。
この結果は『eBioMedicine』に掲載された。専門家は各地域の優先病原体トップ10を特定し、ワクチン開発の段階ごとに分けて世界的なリストとして凝縮した。いくつかのワクチンは開発の初期段階にあるか、規制当局の承認や政策提言が間近に迫っている。
この発表ではA群溶血性レンサ球菌や肺炎桿菌などの病原体についても、全地域における疾病対策の優先課題としてスポットライトを当てており、抗菌薬への耐性が高まっている病原体に対する新しいワクチンの開発が急務であることを指摘している。
WHOの予防接種・ワクチン・生物学部長であるケイト・オブライエン氏は、「新しいワクチンに関する世界的な決定は、最も脆弱な地域社会で救われる可能性のある命の数ではなく、投資利益率によってのみ決定されることがあまりにも多い」と警鐘を鳴らす。一方、研究によって、幅広い地域の専門知識とデータを用いて、地域社会に大きな影響を与えている疾病を大幅に減少させるだけでなく、医療費も削減するワクチンを評価すると付け加えている。
新たに流行優先病原体リストに含まれたのは、将来の大流行やパンデミックを引き起こす可能性のある病原体であり、流行に関する研究開発の青写真を補完するものになるという。とくにA群溶血性レンサ球菌やC型肝炎ウイルス、HIV、肺炎桿菌、サイトメガロウイルス、インフルエンザウイルス(広域予防ワクチン)、リーシュマニア属、非チフス性サルモネラ菌、ノロウイルス、マラリア原虫、赤痢菌、黄色ブドウ球菌は、ワクチン開発の緊急性が高いとされた。なかでも患者数が多いA群溶血性レンサ球菌は、主に低所得国において重篤な感染症を引き起こし、リウマチ性心疾患による年間約28万人の死亡の原因となっている。
またWHOはクレブシエラ肺炎の危険性も挙げた。同疾患は低所得国における血液感染症(敗血症)による新生児死亡の約40%の原因となっている。
一方でデングウイルス、B群レンサ球菌、腸管外病原性大腸菌、結核菌、呼吸器合胞体ウイルスについては、規制当局の承認や政策提言、導入が近づいている病原体と位置付けた。
WHOは今年5月にも「24年細菌性優先病原体リスト」を発表。公衆衛生に対する脅威のひとつと認識されている抗生物質耐性の進化する課題に対処するために、優先されるべき抗生物質耐性細菌病原体を強く指摘していた。
今回のリストでは、24の病原体をカバーし、研究開発や公衆衛生介入に情報を提供するために、それらを「重要」「高優先度」「中優先度」のグループに分類した。研究チームは最新報告のまとめとして、低所得地域に深刻な影響を与える病気は注目されてこなかったことを強調し、「新しいワクチンの研究開発が商業的な機会だけでなく、健康上の負担によって推進されるよう焦点を変えたい」としている。