日本市場は「最低でも2倍」


 SBCは日本大学医学部を卒業した相川代表が、00年に神奈川県藤沢市で開業したのが始まり。総合美容や美容皮膚科だけでなく、歯科、整形外科、不妊治療・婦人科、薄毛治療など多様な診療科を掲げる。美容医療といえば顔にメスを入れる外科的施術のイメージがあるが、最近ではヒアルロン酸の注入で鼻筋や唇の形を整え、ボトックス注射でシワを改善するなど侵襲が少ない施術が人気。心理的なハードルが低く「プチ整形」とも呼ばれる。SBCはこの切らないタイプの施術を中心に価格破壊を起こしてシェアを拡大した。


 SBCの説明によると日本の美容医療市場は推定50億ドル(7500億円)。コア顧客層となる10〜30代女性の美容医療の普及率は21%で、40〜60代女性と男性は7%という。美容医療の先進国である韓国では2割程度がサービスを受けたことがあるそうで、日本はせいぜい1割のため「最低でも2倍にはなる」(相川氏)と予想。さらに海外に目を向けるとその市場は560億ドル(8兆4000億円)と巨大だ。SBCは米国とベトナムのクリニックを拠点に海外展開をめざす方針。とくに「アジアで一番になれば世界一が見えてくる」と野望は大きい。


 拡大する市場を見込んで企業も参入。楽天グループは5月、ネクシィーズグループとSBCメディカルグループが設立した「アイメッド」と連携し、医薬品の直販サービスを開始。アイメッドはオンライン診療の支援サービスの大手。「お薬をもっと自由に」を掲げ、オンライン上で提携医療機関の自由診療を受診してもらい、医薬品を受け取れる仕組みをつくった。


 医薬品では「GLP-1ダイエット」と称し、自由診療で糖尿病治療薬の「オゼンピック」(一般名=セマグルチド)や「マンジャロ」(チルゼパチド)がオンライン診療で処方されている。セマグルチドが「ウゴービ」の製品名で肥満症治療薬として承認を得ているとしても厳格な使用制限があり、美容目的の処方は適応外使用となる。厚生労働省や日本肥満学会は不適切な使用に警鐘を鳴らしているが、流通ルートは着々と整いつつある。米国での爆発的な肥満症薬ブームからすると、いくら公的保険で規制をかけても、自由診療で製薬企業が無視できない程度の市場が構築されるのは時間の問題だろう。


 ちなみに楽天の三木谷浩史社長といえば、要指導医薬品のインターネット販売解禁を要望して訴訟を起こした過去がある。最高裁まで争った末に楽天が敗訴となったが、今度はオンライン診療を主戦場に医薬品の流通網をつくろうという試みのようだ。オンライン診療はSBCも注力しており、相川氏は上場に合わせて三木谷氏と対談するなど関係性を強めている。


 また眼科も美容医療にとって伸びしろのある領域。例えば眼瞼下垂は保険診療のほか自由診療で形成外科治療を施すことで改善が期待できる。製薬企業では参天製薬が、眼瞼下垂の治療薬を開発中で「自由診療マーケットに活路を見出す」方針を示している。参天製薬が手を組むかは不明だが、新たな医薬品市場となる可能性がある。