厚労省の規制強化の先


 急速に力をつけてきた美容医療は、既存の医療界にとって無視できない存在になっている。分かりやすいのは若手医師が研修を終えてすぐに美容医療クリニックに就職する「直美」の問題だ。残業が多い割に給与が低い大学病院での勤務を嫌がり、初期研修を終えると、給与が高い美容医療業界に流れるようなった。医師の働き方改革と相まって直美に歯止めがかからず、病院側は医師不足に悩まされている。


 さらに問題なのが消費者トラブルだ。国民生活センターに寄せられた23年の相談件数は5507件で、2年前の2602件から倍増した。「顔のリフトアップ施術で左右非対称となった」「シワをとるはずが顔面麻痺が残った」などの報告がある。美容医療業界に経験の浅い医者が流れるようになり、トラブルが増えた。後遺症を治療する病院の負担は増すばかりだ。


 このため厚労省は6月に「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設置して市場の健全化に乗り出した。検討会では、共立美容外科の久次米秋人理事長が「ここにいる方は、今の美容医療がどんなに悪いかということは多分知らないと思う。私が言うのも変だが、本当にぼったくりバーみたいだ」と身内からも苦言が出るほど。「モラルを逸脱したドクターが想像以上に増えている」という。


 検討会は11月に報告書をまとめ、年1回安全管理措置の実施状況を報告する仕組みの導入や、カルテ記載の徹底、関係学会によるガイドライン作成を進める方針を示した。また、保健所による立入検査・指導のプロセス・法的根拠を明確化。オンライン診療についても、指針が遵守されるように法的位置づけを整理する。美容医療業界にとっては規制強化で、ぼったくりクリニックの淘汰が期待される。


 もともと美容医療の価格は「顧客によって変わる」と言われてきた。患者の希望を聞きながら価格を決めていくので不透明な部分がある。最近では業界第2位のTCB東京中央美容外科が今年9月、『週刊文春』に高額契約を迫りトラブルになったと報じられた。一方で、二重まぶたの施術などで定額を打ち出す動きもある。美容医療=高額というイメージがあるが、これからは透明性のある価格競争にシフトする見通し。


 厚労省の規制強化が逆に追い風となるグループもあるだろう。今後は確かな技術と明瞭な価格、信頼を獲得したグループがM&Aをしながら集約していくと見られる。数年後、公的保険と融合させた新たな病院が誕生する可能性は高い。健全化が進めば医薬品を提供する製薬企業が巻き込まれる事故も少なくなりそうだ。