無駄な回収が供給不安に
生産体制強化が医政局の言う「後発品業界再編」の柱だが、それを補助金等も駆使して行おうとしている。しかし、24年5月22日に出された「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」報告書(概要)は一見もっともらしいが、かなりおかしなものである。最初の「徹底した自主点検の実施」からしておかしい。ガバナンス強化は行政向けにすべきだし、薬事監視の向上も躓いたままだ。安定供給能力の確保の項の施策は、ペーパーワークを増大させる。この施策で「収益と投資の好循環」が生まれるのか、業界はかなり懐疑的と思う。
前号(12月1日号)で紹介した相違の例「pH測定時の試験液量の相違(承認書と実態間の相違で10㎖と20㎖の違い)」については、想像ではあるが、経験豊かでPMDA(医薬品医療機器総合機構)とやり取りを繰り返した企業は承認書に「測定に必要な液量をとり」などとして、液量の変更により承認書を修正しなくてもよい書き方にしていると思う。これは品質確保に本質的でも何でもなく、要は承認書の書き方のテクニックである。しかし中小企業にはこの辺りのノウハウが欠けている。05年2月の製造方法記載指針から19年以上経ってようやくわかりやすい例示を多く出す方針が出されたが、当局の動きはあまりにも遅すぎる。
また、相違が多いなら軽微変更届出をどんどん出せばよいではないかと思われるかもしれないが、PMDAにはすでに膨大な数の軽微届出がたまっている。米欧では軽微届出に相当するものは、出してすぐまたは30日以内などに当局から指摘がなければそれで届出は終了するが、日本ではそれだけでは終わらない。何年か後に一部変更承認申請を出した時に、何年前であってもそれまでの軽微届出すべてが精査され、時には昔の軽微届出は一変の内容であるとされ、顛末書を書かせられるかもしれない。
なぜなら、今でも製造法変更の何が軽微届出でよく、何が一変に当たるのかが不明確なのである。申請側が持つデータ次第、説明次第とも言われるが、その点は申請側に十分伝わっているのだろうか。このような煩瑣な作業が民間側・役所側に多く発生している。
この変則的な審査は、日本薬局方関連の規制にその起源を見ることができるのかもしれない。米欧薬局方では試験法が改正された際は、一定期間内にすべて新試験法に改めないといけないが、日本薬局方の場合は一変申請をしなければ、いつまでも古い試験法を用い続けられる。日本の「護送船団行政」と関係しているのではないか。そうだとすると、医政局の有識者検討会では、途中から「護送船団方式打破」は聞かれなくなったが、早く方針転換を急ぐべきだろう。
以上がいつまで経っても「相違」がなくならない原因、背景と言えるだろう。そもそも専門家は承認書と製造実態の相違に関する点検は品質向上にあまり役に立たないと言っているし、承認事項に反する医薬品は回収という14年の局長通知を機械的に運用し、多くの無駄な回収が供給を不安定にしたことは確実であり、当局はずっと国民をだまし続けたと言っても過言ではないだろう。
これらの理不尽な行政方針は不透明であり、「弱小企業の経営にとっては負担以外の何物でもない。このあたりが業界再編を強硬に促す当局側の思惑に合致するのではないかと疑ってみてしまう」とはある業界人の言葉である。もっと科学の発展に基づく真っ当な業界再編策がある。国際的な規制の強化についていけない企業には退出を願うのである。
※日経DI・24年12月3日、熊谷信、「供給不安の改善に2〜3年かかると言われて」