「『オプジーボ』1剤で国が滅ぶ」——。いまから8年前の発言によって高額薬剤が社会問題と化し、薬価制度に大きな変革をもたらした。この引き金を引いた日本赤十字医療センター化学療法科(腫瘍専門)の國頭英夫部長は今年4月、オプジーボと同じ作用機序を持つ「キイトルーダ」を対象に投与量を減らせるか評価する臨床試験を開始。10月には日本医療研究開発機構(AMED)の高額薬剤をテーマとした研究課題に採択された。いまなお高額薬剤の問題に向き合い続ける國頭氏に話を聞いた。
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——AMEDに採択された臨床試験はどういったものか。
國頭 MSDのPD-1阻害剤「キイトルーダ」の投与量を体重の軽い患者で半減させられるか評価する。うまくいけば薬剤費の年間100億から200億円くらいの削減につながるだろう。多くの専門家は、キイトルーダのような免疫チェックポイント阻害剤で過剰投与になっている可能性があると考えている。従来の抗がん剤は投与量が増えれば殺細胞効果が上がる一方で副作用も増えるが、免疫チェックポイント阻害剤はそうではない。効果が得られるか、副作用が発現するかは患者に寄りけりで、承認されている現状の投与量が最適とは限らない。
——過剰投与と考える理由は。
國頭 キイトルーダは最初に承認されたとき、投与量は体重別で算出されていた。体重1㎏あたりの投与量は2㎎で、例えば60㎏の患者なら投与量は120㎎になる。しかし、その後は一部変更承認により体重は関係なくなり、基本的に200㎎を投与する固定用量に変わった。何人もの臨床薬理の専門家に聞いてまわったが、皆が口を揃えて過剰投与になっていると指摘していた。
——高額薬剤の研究は投与量を減らす手法が取られるのか。
國頭 患者からすると、体重が軽ければ投与量を減らすという考え方は受け入れやすい。ほかにも、投与をやめるタイミングを検討したり、投与間隔を伸ばしたりといった手法がある。私も16年に小野薬品のオプジーボをいつまで投与継続すればいいか検討する観察研究を実施し、論文も出したが、正直言って、大した成果は得られなかった。現在は海外でも高額薬剤の研究が進み、投与を適正化する方法論は洗練されてきたと言える。
——日本で高額薬剤の研究は進展しているか。
國頭 そうとは言えない。私がAMEDから採択された高額薬剤をテーマにした研究課題はほかに応募した人がおらず、無投票当選状態だった。かつて私はオプジーボの経済毒性を問題提起し、これによって社会全体で考えていくことになったはずだ。ところが、それは表向きで、実際のところあまり変わっていないのではないか。
——これまでの8年をかけても、意識改革はされていないのか。
國頭 多少はあるだろうが、日本で高額薬剤を研究している人がほとんどいないのが証左になる。なぜ進まないのかというと、大した業績にならないからだ。新薬の治験をして『NEJM』や『ランセット』など、世界的な医学誌の著者として掲載されたほうが褒められる。治験に参加すれば製薬企業が国際学会にビジネスクラスのフライトで連れて行ってくれて、華やかなレセプションに参加し、有名なドクターと話す。私らは自腹を切ってエコノミークラスに乗る。