国内責任者との共同義務とは
暫定規定では、海外MAHと国内責任者が共同で義務を果たすよう求めている。具体的な共同義務を見てみよう。
第1に、医薬品の品質・安全性に対して責任を持つ。医薬品市販後の品質保証システムを構築し、品質保証とリスク管理能力を持続的に確保する。
第2に、トレーサビリティ(追跡可能性)システムの構築と実施に対して責任を負う。関連製品のトレーサビリティを確保し、規定に従ってトレーサビリティ情報を提供する。
第3に、医薬品の年次報告制度の構築と実施に対して責任を負う。規定に従って関連製品の中国国内での製造・販売、市販後調査、リスク管理などの状況を報告する。
第4に、医薬品市販後の変更、医薬品再登録の管理制度(日本の再審査・再評価のような制度)の確立と実施に対して責任を負い、規定に基づき変更事項を処理する。
第5に、ファーマコビジランス(PV)システムの構築に対して責任を負う。既に市販された医薬品の副作用及びその他の医薬品使用に関連する有害事象のモニタリング、特定、評価とコントロールを実施する。
第6に、医薬品市販後の回収、品質クレーム処理などを担当し、規定に従って所在地の地方薬品監督管理部門に報告する。
第7に、規定に従って標準物質を中国食品薬品検定研究院に提出し、薬品監督管理部門が実施する抜き取り検査及びロットリリースなどの関連業務に協力する。
第8に、海外MAHの生産現場に関する検査、調査、違反・違法行為の調査・処分が実施されるよう、薬品監督管理部門に協力する。
第9に、法律に規定された他の義務を果たす。
このうち、第3の年次報告制度については、医薬品管理法とNMPAによる「医薬品年次報告管理規定」でも示されている。MAHは、▽製品の基本情報▽製造販売の情報▽市販後調査及び変更の管理情報▽リスク管理に関する情報——を薬品監督管理部門に提出する。MAHが海外企業の場合、海外企業が指定した中国企業が年次報告の義務を履行するとしている。一方で、今回の暫定規定では、年次報告は「共同義務」として定められている。
また、第8の海外査察については、海外MAHが全面的に協力しなければならない。医薬品管理法などの法規でも明示されており、協力しないと販売ができなくなってしまう。
ここで、ひとつの事例を紹介したい。数年前、NMPAは、日本のある企業が中国で販売していた気管支拡張薬の「メトキシフェナミン塩酸塩」について、生産現場査察の実施を求めた。しかし、当該企業は「現場査察を受けない」と表明し、査察に協力しないことを明らかにした。その結果を受け、NMPAは「査察拒否」と見做し、「医薬品医療機器海外査察管理規定」に対する違反として、同製品の販売中止を命じた。
今回の暫定規定の公表日から実施日までに長い期間を置くことについて、NMPAは、「海外製品の説明書(添付文書)の改訂などを考慮して、海外MAHは報告資料を準備する必要があるため、海外MAHに約8ヵ月の経過措置期間を与えた」と説明している。
海外MAHは、市販されている海外製品に対して、経過措置期間内に国内責任者を指定し、薬品監督管理部門に関連資料を提出しなければならない。
海外MAHが国内責任者を変更した場合、その権限が発効した後15日以内に、変更後の所在地の規制当局に報告する。また、海外MAHは年次報告書に前年の国内責任者の変更状況を報告する必要があるとしている。
今回の暫定規定で求められている国内責任者の指定は、医薬品の行政審査・承認プロセスを伴わないため、海外MAHの市販承認に影響がない。主に国内責任者に対して管理を強化するのが目的だとNMPAは強調している。
しかし、国内責任者の義務や責任が大きくなれば、「ヒト、モノ、カネ」といった負担も増える。それらは海外MAHに転嫁されるだろう。よって、海外MAHに影響がないとは到底言えないのだ。